Issue 2023.12

Issue 2023.12

デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2020.2.12

Report: Creative tour 波佐見 〜写真教室編〜(参加者の発表) 9/9

K.Nさん

camera: PENTAX MX

超広角ズームレンズを使ったデジタルの撮影と並行して、今回、銀塩フィルムを使って標準レンズ1本だけで撮影しました。
情景を切り取りながら中尾山のまちを歩き回るうちに、そこにかつて暮らしていた人たちの、目に見えない「記憶」と向き合っているという感覚が湧き上がってきました。
僅か6枚の写真です。それでも、場所の記憶の声に耳を傾けた自分自身の大切な時間を託すことはできたかなと思います。

記憶の声1| 小学校の旧講堂。子どもたちの声や、入学式、始業式、卒業式といった大切な時の気配がまだ薄れず、今でもそれを呼吸することができるような光に包まれていました。

記憶の声2| 旧講堂の入り口側妻面の窓ガラスが空の光を映し出しています。講堂に出入りする子どもたちや地域の人たち誰もが、朝夕、晴雨、恐らく必ず一度は仰ぎ見たに違いありません。

記憶の声3| 中尾山の斜面地にある民家の屋根。この町でよく見られる如くに、遠くレンガ煙突が目に入ります。大きな屋根の下でどんな人たちが何を思い日々を重ねたのでしょう。

記憶の声4| デジタルでも違うアングルでアプローチしたこのレンガ積み壁。撮り歩いた日の穏やかさからは想像できないほど過酷な風雪と時間に耐えて、今なお暮らしを守っています。

記憶の声5| 中尾山のまちなかに沢山あるレンガ煙突のひとつを見上げて。使われなくなって久しいのですが、何十年か前には通りを歩く人たちの声の中、空に煙を吐いていたことでしょう。

記憶の声6| 路地の奥の石段を登ったところにもう家は無く菜の花が揺れています。それでも、僕たちはここを行き交う人たちの立ち振る舞いを想像し描ける。不思議なことです。

〜フィルムカメラのため、当日はデジカメで撮影したものを発表(以下がデジカメ撮影分)〜

僕はいつも写真は「目に見えないものを写したい」と思って撮っています。

(1枚目)“流れのなかの気持ち”
中善さんの工場での1枚。皿板に貼られたメモに、かわいらしいイラストが添えられています。職人さんは毎日、同じ作業を一日中、繰り返されていると思うのですが、作業のちょっとした隙間に描かれたのだろう、人間味のある心遣いのようなものに惹かれて撮りました。

(2枚目)“繋がっている孤独”
見学中に思ったのは、職人さんの仕事はとても孤独な作業だということ。その孤独な感じを表すため、絵付けされた器を手前に、人を奥の方に配して撮影しました。
しかし、このシーンからは、孤独なんだけれども「繋がり」も感じました。生地屋さんから受け取った器に絵付けを施し、また次の工程の職人へと引き継いでいく。自分の果たしていることが、一人で完結するのではなく、前後の仕事と密接に結びついている、分業制ならではの繋がりだなと。

(3枚目)“時が削り取る街角”
おそらく50年以上は優に経っているであろう、風雪に削られながらも立ち続けている壁。その前に咲く花との取り合わせが、時間の経過と、今なお、ここで生業が営まれているということを象徴していると感じました。

(4枚目)“根を支える流れ”
さまざまな魅力がある中尾山。路地も、素晴らしい景観の一つです。そして、谷底に流れている川が、この集落の魅力の一番底、根っこの部分を支えているのではないかと強く感じました。水の流れる動きや音、光のきらめきなどが、この地を生き生きと彩っていました。
昔からずっと流れている川と、今の生活を感じられる路地の姿を撮りたいと、このアングルで住民が通るのをずっと待っていたのですが15分ほど粘っても現れず、諦めて離れかけた時に人影が。慌てて戻って撮ったワンショットです。

(5枚目)“ハサミのいま”
人気の観光スポットである、西の原で撮った1枚。波佐見の「今」の姿を現している風景だなと思います。

(6枚目)“未来への模索”
最後に、これからの波佐見がどうなっていくのかを実感した場所です。製陶所の跡地をリノベーションし、ボルダリングのスタジオが作られていました。過去から続いてきた歴史や伝統と繋がりながら、今の人々の暮らしの中に楽しみを作り出し、来訪者をホスピタリティ高くお迎えしている。こういう動きの中から、波佐見の未来が開けていくのではないかなと思って撮りました。

camera: FUJIFILM X-H1

~石川の講評~
歴史ある中尾山の、かつての営みを想像しながら切り取った写真の数々。
たとえ被写体は風化し朽ち果てていたとしても、そこに過去の姿を見て、目には見えない「記憶」を撮ろうとされています。
4枚目の「根を支える流れ」という題の写真が印象的でした。
“根”という解釈や、そうした存在を意識したことがなかったからです。
K.Nさんは職業柄、地域の風景や歴史などに関わるお仕事をされていて、なるほど普段からこういう視点で見ているんだなと思いました。
目の前の景色だけではなく、見えないものの存在を意識するという、こんな写真の撮り方もあるのだなと勉強になりました。

~他の参加者からの感想~

・「見えないものを撮る」という視点が、まさに写し出されていました。2つの被写体を撮られている写真がいくつかあって、それらの対比が面白いかたちで表現されていて素敵でした。

・超広角レンズで撮られていて、とても迫力のあるダイナミックな画ですね。

・波佐見のまち全体を見ている感じがしました。目には見えない時間の流れや未来までも表現されていて素晴らしいなと思います。

・「見えないものを写す」と聞いた時に、ゾクッとするくらいすごいなと思いました。
私が好きな現代美術作家のグレゴール・シュナイダーは、ちょっとネガティブな「見えないもの」を見せてくれる人なのですが、K.Nさんの作品からは、ほっこりするような「見えないもの」が感じ取れて、すごく素敵だなと思いました。

・写真だけでなくプレゼンテーションもすごくて、見習いたいという気持ちで見ていました。

・中尾山の魅力の基盤まで掘り下げ、それを切り取るためにはどうしたら良いのかを深く考察し、住民が通りかかるのを待つなど、自分の撮りたいものに対して貪欲にチャレンジしているなと感じました。
現在の波佐見だけでなく、過去から未来の姿までをまとめていて、「何者なんだろう、この人は」と、ちょっとびっくりました(笑)。
また「水の音」と仰っていましたが、写真を撮る時は普通、あまり音などは気にせず、目で見えるものだけに意識を向けると思うんですけど、そうやって音を聴いて、その場所を五感で感じて撮影していたんだなと驚きましたし、見習いたいなと思いました。

(波佐見空き工房バンク・福田さん)下からグッと見上げたり、一部を思い切り良く切り取ったり。視点の面白さが際立っている写真だと思います。