視点採集コレクション紹介
【1】山本 剛司さん(stage hand)
〈自己紹介〉
九州を中心にまちづくりをしている、なんでも屋さん。
商店街の空き地を活用した「いいづかパンパーク」を展開しています。
志村けんが好き・お笑いが好き。
〈山本さんの視点〉
テーマは「繋ぐ」です。
今から21年前に父親が突然死した僕は、年を重ねるごとに、この言葉と場面に出くわすようになりました。
特に今年に入ってから、昔に出会った縁とまた繋がるというようなことを多々経験しており、最近の僕のテーマになっています。
気がつけば2020年もあと3カ月。
本来ならば、東京ではオリンピックが行われ、日本のメダルラッシュに沸いて、明るいムードの一年になるはずでした。
しかし、新型コロナウイルスがあっという間に広まり、国民から親しまれていた志村けんさんまで亡くなりました。
芸能人は立て続けに自殺。馴染みのお店も閉店ラッシュ。本当に暗い一年になろうとしています。
そんな中、心動かされる場面に当てはまる言葉はやはり「繋ぐ」でした。
そこで、ここ玄海町においても、「繋ぐ」という切り口で撮ってみようと思いました。
1枚目>『水産業の現場で』
十数年前、先見の明で水産業を展開してきた社長を交通事故で失い、現社長はその奥さん。
旦那さんの思い・地元の産業・娘たちへ…大切なものを「繋ぐ」ために立ち上がられていました。
そして、娘さんたちも家業を継ぐために帰ってきています。
海という自然と、魚という生きているものを扱う生業。
気候変動や異常気象の中、全身全霊で仕事に打ち込む社長や娘さん、海の男たちの姿は目に焼きつき、一生忘れることのできない時間となりました。
写真は、トラックに貼られていたステッカー。
「魚は一番、女は二番!」と書かれています。(僕だったら「女が一番、仕事が二番!」でしょうが。)
親たちが背中でしっかりと語っているから、子どもたちも継いでくれている。そのことを、この絵が象徴しているように思われたので撮りました。
2枚目>『港町と猫は切っても切り離せない』
野良猫のように見える彼らも、なんとなくどこかの家に所属していて、行く先々の家でそれぞれの名前があり、家ごとに違った名前で呼ばれてもきちんと反応します。
人間の社会と一緒に猫の暮らしもあることが、港町の象徴的な風景だなと思って撮りました。
3枚目>『ミカン農家さん』
近年、「かつて経験したことのない」という気象情報を年に何度聞くでしょうか。
たわわに実ったミカンも、大雨が降っては落ち、風が吹いては落ち、過酷な状況に晒されています。
きちんと実らせ、綺麗にして、出荷する。その労力は想像しただけでも恐ろしいほどです。
後継者不足という言葉は、全国どの田舎町に行ってもよく聞く言葉で、特に農業は最たるもの。
僕の身内が米農家で、毎年手伝っているのですが、自然環境がこんなに激しく変わっていく中で、毎回毎回やり方を変えていかなくてはならず、僕の田舎でも農業を継ぐ人は非常に減ってきていて、耕作放棄地が恐ろしい勢いでどんどん増えていっている状況です。
しかし、こちらの農家さんは、跡継ぎがしっかりいらっしゃる。
きっと「継いでくれ」という言葉よりも、誇りを持って働く親の背中が心を動かしたのではないかと感じました。
写真は、落ちているミカンです。
つい、もったいないと思ってしまうのですが、ミカンの生育を良くするために、あえて落としているのだとか。
落ちたミカンも無駄ではなく、肥やしになって残ったミカンの生育を助けていく姿に、感じるところがあって撮りました。
4枚目>『三島公園で発見』
いつの頃からあるのだろう…?と思うような石碑や祠をたまに見かけます。
こちらの祠が何を祀っているのかは分かりませんが、誰かが大切に守っているような気配がありました。
地域のこうした神様も、しっかりと受け継がれていっているということで撮りました。
5枚目>『浜野浦の棚田』
「繋ぐ」という言葉には「気持ちをつなぎとめる」という意味もあります。
人の心は変わりやすく、ちょっとしたことで、あっという間に離れてしまう。
それでも、相手が自分に対して抱いている良い感情がいつまでも続いてくれれば…と願う場面は、人間誰しも経験していることだと思います。
昨日の夕方も棚田に行ったところ、初めてのデートのような雰囲気の若いカップルが来ていました。
こうやって距離が縮まって、ひとつのカップルが誕生していくような場所って、すてきだなと改めて思いました。
写真の絵馬のキャラクターは本当は兄妹なのですが(笑)、きっとカップルが自分たちのつもりで描いたのでしょう。
この願いが込められた絵馬が「恋人の聖地」を象徴しているようだなと思って撮りました。
6枚目>『牛舎にて』
こちらの畜産業を営む会社は、若いスタッフが多いことにまず驚きました。
牛は命を繋ぎ、その牛をいただくことで我々人間もまた命を繋いでいる。
そして、その現場の方々も、決して楽ではない生業をしっかり繋いでいる。
ここでもまた、背中で語ってくれる方々がいました。
誇らしく「佐賀牛」と書かれた背中に感動して、牛を眺めている後ろ姿を撮った1枚です。
7枚目>『和牛の直売所にて』
たくさんの賞を受賞されていることが分かる1枚。
一度や二度ではなく、数えきれないくらい受賞し続けるというのは、並大抵の努力では成し得ないことだと思います。
ここで働く人すべてに、創業者からの思いがしっかり繋がれている証拠だなと思い、撮りました。
8枚目>『マコモダケ生産者さんが経営しているお店』
時代の流れとともに、お金のやりとりまでデジタルになりました。
こんな時代になるとは僕は想像していませんでした。
でも、アナログの良さというものもあると思います。
地域の人たちの暮らしにとって大切な役割を果たしているスーパーマーケット。
ここではポイントカードをお店に置いていて、会計の時に自分のカードを取り出します。
みんながみんなを信用している世界。とても理想的。
昔から続く良きスタイルを繋いでいければ…、そう思った空間でした。
9枚目>『家業を継ぐため、建設業から就農』
親の思いを受け、先祖代々からの生業を繋ぐ。
この連鎖を続けていくのはとても大変です。
こちらの畑は海風が抜けていく大地にあり、作物は過酷な状況にさらされます。
しかし、その状況を乗り越えたからこそ、残った野菜たちは強く育つし、きっとそれが美味しさの秘訣にもなっているのでしょう。
写真の苗はまだ小さな芽ですが、これからたくましく育っていくと思います。
10枚目>『地域おこし協力隊員や町職員のみなさんと』
新しく町にやってきた協力隊員、一里さんのような長くこの地に足をつけて発信を続けてきた人、そして町職員の若手が一緒になって、地元の方たちの思いを聞き、繋いでいく。
とても貴重な空間を共にできたシーンだと思い、写真に収めました。
〈山本さんの感想〉
この町の特徴は、生業が継がれていることだと感じました。それぞれにストーリーがあり、とても心を動かされました。
家業を継ぐことは、代々の思いや生き方を繋いでいくことであり、簡単にできることではありません。
けれども、多くを語らず背中で見せてきた家業に、子どもたちが誇りを持ち、繋いでいっている光景は、羨ましくもありました。
〈石川の講評〉
写真としての良し悪しというよりも、山本さんらしさが伝わって「良いな」と思った写真は、最後の10枚目の写真です。
今回の「この場」を作ってきた山本さんが撮った写真として、すごく意味があるなと思いました。
それから、1枚目のステッカーの写真は、パッと見は「なんだろうな?」と疑問に思うのですが、先代の社長が亡くなって、奥さんと娘さんたちが会社を繋いでいっているという物語を、このステッカーに見出して撮ったんだという理由を聞くと「なるほど!」と腑に落ちて、ちゃんと意味のある写真になる。「視点採集」の目的に沿っているという点でも、この写真も良いなと思います。
3枚目のミカンの写真ですが、普通の撮影だったら、みずみずしく実っているミカンを撮るでしょう。あえて落ちているミカンに目を向けたのは、こういう視点を持っていたからこそだと思います。実を落とすことで、残っているミカンに栄養が行くという、テーマの「繋ぐ」という意味もちゃんと感じられて、良いなと思いました。
6枚目の牛舎の写真。僕も「若い社長さんなのに立派だなぁ」と見ていました。若いスタッフさんと共に切り盛りしながら、佐賀牛というブランドを未来へ繋げていくんだということをすごく表している写真だなと思います。ここで牛をメインに撮らず、あえて若社長の背中を撮ったいうのも、この視点ならではだなと感じました。
9枚目の苗の写真も、これだけ見ると何の写真か分かりませんが、話を聞くと、家業を継いで玄海町で農業をしている方がいるんだという背景が伝わります。これもテーマに合った、良い写真だなと思います。