Issue 2023.12

Issue 2023.12

デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2017.1.30

Report: モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

2016年12月13日(火)。
モニターツアー「生業のある風景」の第2回目として、福岡県の柳川市とみやま市を巡ってきました。

・第1回目のモニターツアー「生業のある風景」荒尾・長洲編

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

最初の目的地は、柳川市の中島朝市です。
まずは中島商店会会長の浦さんに、今までの朝市の歴史と、現在取り組まれている「中島商店街イノベーション事業」についてお話を伺いました。

170年程前の江戸時代から続いているという朝市。
当時、ここを治めていたお殿様から許されていたお店が5〜6軒と少なかったため、品物を手に入れるために物々交換をしていたのが朝市の始まりだと言われているそうです。
昔はすぐそばに流れている矢部川の近くで開かれていましたが、約60年前にこの商店街ができ、ここで朝市が行われるようになりました。
正月三が日以外は毎日営業。有明海沿岸で朝市を毎日開いているところは、ここだけなのだとか。

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空き地となっている場所にも、かつては青果市場があり、映画館や寿司屋、スナックに小料理屋など色々なお店が軒を連ね、ここで生活すれば、すべてが揃うような状況でした。
しかし、時代と共に段々と空き店舗が増え、今や営業しているのは半分程度。
30年程前までは露天で商売をされている方が40人程いましたが、現在は高齢化などの影響で10人もいらっしゃらないということでした。

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今、商店街の中にある60坪の古民家をリノベーションし、中島地区の賑わいを創出する拠点にしていこうという事業を行っています。
「自分の生活のために商売をして稼ぐだけでなく、地域に住んでいる人やコミュニティの人たちに喜んでもらえることをするのが自分たちのやらなければならないことだと思う」そう語る浦さんの熱い想いに、感銘を受けました。

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それでは、実際に中島朝市の散策へと繰り出しましょう。

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お天気があいにくの雨で、お店を出されている方も多くはなかったのですが、それでもスーパーなどと違い、直接お店の方と対面して話をしながら買い物するのは、とても楽しいものです。

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こちらの商店街の方は、とても気さくに声をかけてくださいます。
そして、有明海の新鮮な海の幸がとってもお安い!!

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「1箱でこのお値段!?」とビックリするようなものや、なかなか普段はお目にかかれないようなお魚も並んでいて、思わず目移りしてしまいます。

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今夜のおかずにと新鮮な魚介類や野菜を購入する人、「お買い得だったから」とチクワなどの練りものをたくさん手にしている人、美味しそうなミカンの入った袋を下げている人、買った車海老を「刺身で食べようか、しゃぶしゃぶにしようか」とほくそ笑んでいる人、揚げたてのお惣菜で小腹を満たす人など、参加者の方々も思い思いにお買い物を楽しんでいらっしゃいました。

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中島朝市を堪能した後は、漁港の方へと歩いて向かいます。

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川沿いに停泊している海苔漁船。
実はここ柳川は、全国第2位の水揚げ量を誇る、海苔の一大産地でもあるのです。

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続いては、昼食の場所へ。
バスに乗り込む前、柳川市をご案内くださった犬塚さんから「皆さんにどうぞ」とお土産が。
個人的に「朝市で絶対に食べよう!」と意気込んでいたものの、お店が移転していたため断念した回転焼きではないですか!!
わざわざ買いに行ってくださって、本当にありがとうございました。お心遣いがとても嬉しかったです。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

ランチは柳川のお堀沿いにあるオシャレなお店「紅茶の店リバーフロー」で頂きました。ごちそうさまでした!
お腹いっぱいになった後は、柳川市からみやま市へと移動します。

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次の見学地は、280年以上の歴史を持つ菊美人酒造。専務の江崎さんにお話を伺いました。
福岡県には造り酒屋が多く、その数なんと全国第5位。70もの蔵元があり、その内の61軒は日本酒蔵で、残りが焼酎蔵だそうです。福岡の民謡・黒田節で「酒は呑め呑め 呑むならば〜♪」と唄われている酒というのも、もちろん日本酒のこと。福岡・佐賀・長崎は、だいたい日本酒が主なのだとか。

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ここは水がとても良く、ミネラルウォーターを買う必要がないほど。そんな矢部川の伏流水を日本酒の仕込みに使うだけでなく、昔は水運にも利用し、長崎までお酒を運んでいました。
坂本龍馬ら幕末の志士たちが長崎の料亭・花月で呑んでいたお酒は、菊美人酒造を含めた、ここ瀬高のもの。「日本の近代を作ったのは瀬高の酒と言っても過言じゃないんです」と江崎さん。

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先々代の社長の奥様である加代さんは、柳川の詩人・北原白秋の実姉にあたります。加代さんは93歳というご長寿で、江崎さんも中学2年生の時まで一緒に暮らしていました。
お酒「菊美人」のラベルの文字は白秋のもの。室内には白秋の直筆の書がいくつも飾られていて、なんだかテレビの『開運!なんでも鑑定団』を見ている気分に…。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

新酒が出来たことを知らせる「杉玉」。「酒林(さかばやし)」とも言うそうです。
ちょうど12月はお酒を作られていなかったのですが、お米を蒸す釜場、仕込み蔵、麹室などを見せてもらいながら、酒造りの方法を教えていただきました。

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煉瓦造りのとても古い麹室。断熱材として籾殻が使われていて、中は冬場でも34度くらいに保たれています。麹作りは泊まり込みで、しかも4月中旬まで休み無しの大変な作業とのこと。

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「秋洗い」という言葉があるそうで、秋に蔵や道具の掃除をします。殺菌は昔ながらの柿渋を使って。不思議なことに、柿渋のにおいはお酒につかないのだとか。
今となっては作る職人もいなくなった大きな木桶や斗瓶なども大切に使われていました。
蔵人の歌う「酒造り唄」も、昔々のお話ではなく、今も実際に歌いながら作業をしているそう。みんなで唄を歌うことで、作業時間を測ることができ、かき混ぜる時の櫂(かい)を入れる調子も揃うからです。

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お酒を絞る槽場(ふなば)。舟の形をした水槽(みずぶね)と責槽(せめぶね)を使い、普通酒まで全部これで絞っています。冬の冷たさの中、酒袋にもろみを入れて手作業で積んでいくのは、とても辛い仕事。それでも自動圧搾機を使わないのは「手間をかければかけるほど、酒は美味しくなる」という信念があるからこそ。

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黙々と瓶詰め作業をされていました。
こちらでは現在8人で酒造りを行っていて、だいたい35日から45日かけて日本酒が出来上がるそうです。

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ラベル貼りも1本1本、手作業で。
受け継がれてきた知恵や伝統の技、そしてこの味を守り、本当に良いものをつくっていかなければならないという決意が、江崎さんのお話から伝わってきました。

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「日本酒は四季で味が変わるのが面白い」と江崎さん。春はフレッシュで荒々しい味、夏になるとだいぶ落ち着いてきて、夏越えすると熟成が増す。「食欲の秋」と言いますが、秋になるとお酒も美味しくなるとのこと。
そして、お酒の試飲もさせていただきました。
柳川の甘辛い魚の煮付けにも負けないような、どっしりした味。生野菜が合うような、スッとした味…。
ちょっぴりホロ酔いになりながら、気に入ったお酒をお土産に買って、最後の目的地へと向かいます。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

到着したのは荒木製蝋。櫨(はぜ)の木から蝋(ろう)を作っている、全国でも珍しい会社です。
エフ・ディが出版している『ちくごの手仕事』や『littlepress』でも取材をさせていただいています。

社長の荒木さんにご説明いただきながら、工場内を見学しました。
ウルシの仲間である櫨。その実から抽出されて出来る蝋を木蝋(もくろう)と呼びます。
最近では目にすることも少なくなった、和ろうそくの原料でもあります。その他、化粧品や医薬品、文房具などの原料にも。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

「櫨の実の果肉部分と種、どちらから蝋が取れると思いますか?」と荒木さん。
てっきり種からだと思ったのですが、正解は果肉の方。

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抽出した蝋を器に入れて冷しているところ。
生蝋(きろう)と呼ばれる状態のもので、緑がかった色をしていますが、天日に干すと、自然に白く変化します。

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昔は天日に干す作業を農家の方にお願いしていましたが、高齢化や後継者不足のため難しくなり、止むを得ず、こちらでハウスを利用して干すようになりました。
完全に漂白するのに、夏で35日くらい、冬で2ヵ月から3ヵ月かかるそうです。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

毎朝、裏表を返さなければなりません。蝋を広げるこの道具も手作りされていました。
天日漂白した蝋を精製加工した白蝋(はくろう)は、京都の舞妓さんの白粉下地や相撲力士の鬢付け油などにも使われます。

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機械の修理も自分たちで。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

和ろうそくの芯は糸ではなく、い草と和紙と絹で出来ているそうです。
2016年の大河ドラマ『真田丸』では、きちんと和ろうそくが使われていたと仰る荒木さん。
石油のパラフィンから作られる一般的なろうそくと違い、和ろうそくの炎は、形がきちっと尖っていてボヤけていないので、本物かどうかは見れば分かるそうです。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

まるで生き物のように揺らぐ和ろうそくの炎に、思わず感嘆の声が漏れます。
実際に火をつけたところを見るまで、炎がこんなにも大きく、このように揺らめくものだとは知りませんでした。
「まさに髙島野十郎の絵『蝋燭』そのものですね!」という声も。

Report モニターツアー「生業のある風景」柳川・みやま編

櫨蝋は本当に良いものだから、その魅力をぜひ知ってほしい…そんな想いが荒木さんの言葉から感じられました。
家へ帰ったら、お土産に購入した和ろうそくに火を灯し、炎の揺らめきを眺めながら、日本酒を片手にリラックスタイムを楽しみたいなと思います。

途中、バスの車窓から櫨の並木を眺めつつ、道の駅みやまへ。
みやまの特産品を買い込んだ後は、意見交換会です。参加者の皆さんから貴重なご意見・ご感想を頂きました。
ご参加いただき、ありがとうございました!

お話を聞かせてくださった皆さん。
柳川市をご案内くださった犬塚さん。
みやま市をご案内くださった松尾さん。
その他、ご協力くださった皆さん、本当にありがとうございました。