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2021.4.13

筒山太一窯 |福田さやかさん

筒山太一窯

嫁ぎ先で知った、奥深く楽しい世界。

波佐見焼といえば「磁器」を思い浮かべますが、「筒山太一窯(つつやたいちがま)」は主に「陶器(土もの)」をつくっている窯元です。
普段使いのお茶碗から、料亭などでも用いられる和食器まで、幅広く製造。
粉引といった、波佐見では珍しい雰囲気の器も。
磁器もつくられており、切子硝子のような繊細な幾何学模様が施された「陶切子」というデザインは「長崎デザインアワード2016」で大賞を受賞しています。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯 波佐見ポートレイト|筒山太一窯

さらには器だけにとどまらず、日本トップクラスの性能を誇る蓄光タイルなども開発し、特許まで取得。
太陽光や蛍光灯の光を蓄積し、電気がなくても暗いところで発光。しかも、半永久的に使える耐久性もあるため、地下鉄の駅の避難誘導標識などに使用されています。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯

筒山太一窯は、現在、会長職についている福田友和さんが1988年に創業。
もともと自動車メーカーに勤めていましたが、30歳手前で窯業の道へ。
磁器よりも陶器の方が土や釉薬の種類が多く、何より、土のもつ温かさに惹かれたことから、陶器をメインにされたそうです。
「一子相伝の小鹿田焼などと異なり、波佐見は自由だから挑戦できるんです」と会長。
時代によって変わる嗜好に合わせて、さまざまなチャレンジをしてきました。

本社の工房があるのは中尾山。従業員が増え、手狭になってきたことから、1996年に第2工場を小樽郷(こだるごう)に開設。
中尾山では酸化焼成、小樽では還元焼成という方法がとられています。

*「酸化焼成」は十分な酸素が供給された完全燃焼状態、「還元焼成」は酸素が乏しい不完全燃焼状態で焼く方法。焼成方法によって、同じ釉薬でも発色が変わる。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯 波佐見ポートレイト|筒山太一窯

中尾山の工房で釉薬がけや窯積みなどを行っている、会長の福田友和さん。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯

2019年に代替わりし、息子の太一さんが社長を継ぎました。
料理の勉強をし、調理師の免許も持っているという太一さん。
土や釉薬にこだわり、器一つ一つに違った味わいが楽しめる特徴的な器や、スリップウェアという技法を用いたデザインを生み出すなど、先代から受け継いだものを守りながらも、さらなる発展を目指しています。

器に名入れができるサンドブラスト加工や、オンラインでの販売にも力を入れはじめました。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯

主に、小樽の工場で製作に携わる社長の福田太一さん。

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太一さんがデザインしたスリップウェアの矢羽根文様は、すべて手描きされているとは信じられないほど緻密です。
マーブル柄も難易度が高く、会長も「自分には描けない」と感嘆の声。
コップのような垂直の面に絵付けするのが、特に難しいのだとか。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯 波佐見ポートレイト|筒山太一窯

焼成の前後で全く違う色をしているので、見ていて興味深かったです。

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太一さんと奥様のさやかさん。

社長の妻として、太一さんを支えながら共に働いている、さやかさんにお話を伺いました。

さやかさんは波佐見町の隣にある川棚町のご出身。

「実家のすぐそばは海なんです。海べたから山を登って嫁いできました(笑)。
びっくりしましたね。あんな坂道に家が建ってるんだと思って。」

高校で家政科に進み、裁縫が好きでミシンを使う仕事だからと、波佐見町にあるカッターシャツをつくる工場に就職。
結婚されてからも、そこで2年ほど働き、4年前から筒山太一窯で働きはじめました。

「やはり夫が次期社長ということもあり、覚悟を決めて、ここで一緒に仕事をするようになりました。
何の知識もなく、全くのド素人だったので、最初は戸惑うこともありましたね。」

今は主に事務を行っており、出荷作業や在庫管理、電話対応などをしながら、人手が足りない時は窯場の作業も。

波佐見焼は分業体制で、器の基本は生地屋さんがつくります。
磁器の生地をつくっている生地屋さんしか知らなかったのですが、陶器の生地をつくっているところもあるそうです。

「土ものをやる窯元さんも増えましたので、陶器専門の生地屋さんもあります。磁器と陶器、両方できるところも。
生地屋さんから納品してもらったものに、うちで釉薬をかけて焼く、という感じです。」

波佐見ポートレイト|筒山太一窯 波佐見ポートレイト|筒山太一窯

──お仕事のやりがいを教えてください。

「私が絵付けした器を、初めて陶器市で買っていただいた時は嬉しかったですね。
その時のお客様の顔は忘れられません。
もっと自分が手を施した器を届けていきたいなって、すごく思いました。

今まで何気なく使っていた器ですが、ここで働くようになり、製造工程を目の当たりにして、とても多くの人の手が加わっていることを知りました。
窯詰めの際の器を積む位置や焼成温度の違いで、できあがりの表情が微妙に変わってきます。
手の温もりを感じられる職業だなと、感慨深くなります。

日常の食卓でも料理を引き立たせてくれる器や、多様に使える器など、つくり手側に立った今だからこそ考えて伝えていける、そんな奥深くも楽しい世界に連れてきてくれた社長に感謝ですね。」

──今後のビジョンや目標は何ですか?

「コロナ禍という状況でもあるので、身近な人と過ごす食事の時間が、うちの器を使うことで少しでも豊かになればと願っています。
まだまだ知識も足りず日々勉強ですが、会長をはじめ、社長や従業員さんたちの力を借りて、お客様に喜んでいただける器づくりに励んでいきたいです。」

──私の波佐見のイチオシ!

「陶郷・中尾山の四季折々の景色がおすすめです。
迷路のように入り組んだ路地裏を散策するのも楽しいですよ。
うちの中尾山の工房も、細い坂道を登った先にありますので、ぜひお立ち寄りください。」

波佐見ポートレイト|筒山太一窯

さやかさんの、器に深い愛情を注ぎながら丁寧に仕事と向き合っている姿勢が印象的でした。

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社名の由来を会長にお尋ねしたところ、中尾山の工房の裏にある「筒山」という山から取ったのだそう。のろし台があったような歴史ある場所なんだとか。
そして、息子さんにつけた「太一」という名が格好良かったから、とのことでした。
てっきり「筒山太一さん」という人が興した窯なのかなと想像していたので、真相を知ることができてスッキリしました。

波佐見ポートレイト|筒山太一窯

筒山太一窯の器はバラエティに富み、ひとつのイメージには収まりきれません。
これからも果敢にチャレンジをつづけ、新たなデザインを開拓していくことでしょう。
どんな世界を見せてくれるのか、今後の進化がとても楽しみです。

*2021年1月インタビュー
*撮影の時のみマスクを取っていただきました。

筒山太一窯

長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷1018番地
TEL/0956-85-4912
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