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2021.4.16

波佐見農産物 鬼木加工センター |楠本俊子さん

波佐見ポートレイト|波佐見農産物 鬼木加工センター

鬼木棚田の米と大豆で、美味しくなあれ!

日本の棚田百選にも選ばれている「鬼木棚田」。
夏には青々とした水田、秋には黄金色の稲穂に彼岸花が彩りを添え、四季折々に美しい表情で私たちの目を楽しませてくれます。
9月に開催される「鬼木棚田まつり」では、ユーモラスな案山子がずらりとお出迎え。

この素晴らしい環境で育まれた地元の恵みを生かし、手づくりの品々を製造販売しているのが「波佐見農産物 鬼木加工センター」で、楠本俊子さんは代表を務めています。

「昔はどこの家庭でも味噌づくりをしていましたが、だんだんとつくるところが少なくなってきて。この鬼木の味を継承していこうということで、鬼木地区のみんなで出資をして、1993年に加工センターができました。」

楠本さんはもともと、陶器の会社に勤めていました。
結婚してからは、ご主人のお仕事を手伝いながら子育て。
そんな時、声をかけられたことが、ここで働くようになったきっかけだそうです。

「地域の人に、こういう工場ができるから、やってもらえないかと相談されて。
私自身、いろいろ手づくりするのも好きだったので、引き受けました。
実家でも味噌やお漬物をつくっていて、小さい頃から手伝っていたんですよ。」

当初は楠本さんを含めた5人でスタート。
今はメンバーが変わり、4人で製造から販売まで全ての運営を行っています。
創業から携わっているのは楠本さんだけになりました。

こちらに並んでいる商品は、できるだけ地元の食材を使い、昔ながらの製法でつくられた、安心な無添加のものばかり。
特に、鬼木の棚田米でつくられた合わせ味噌は大人気です。

「味噌は一度に400キロの量を仕込みます。
注文の多い時は、仕込みを毎週しないと間に合わないほど。
それでも追いつかなくて、週に2回も仕込まなければならないこともありました。」

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約3日間かけて仕込む味噌づくり。実はとっても重労働。

「合わせ味噌なので、お米と麦の麹づくりから始めます。
昨日の夕方、お米を洗って浸水しておいたものを、今朝、引き上げて。麦の方はお昼前に洗って準備。
今は、それぞれを蒸して、味噌麹をつくるための作業をしているところです。
蒸し上がったら40度くらいに冷まして、それから麹菌を混ぜて、室(むろ)の中に入れます。
手で混ぜるからね、熱いですよ~。もう釜から上げたばっかりだから。
『切り返し』といって、また夜にも混ぜに来ないといけません。
明日の夕方、大豆を洗って吸水させておいて、明後日の朝から茹でて潰したものと、できた麹を合わせます。」

そうして仕込んだものを3か月ほど熟成させれば、美味しいお味噌の完成!

発酵器があるおかげで、味噌を一年中つくれるようになりましたが、それ以前は発酵に適した9~11月に仕込む家庭が多かったといいます。

「ちょうどお米と大豆を収穫した後に、家で仕込んでいました。
今は機械があるから、当時よりは楽ですね。まぁ、作り方自体は何も変わりません。」

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味の決め手となっているのは、鬼木棚田のお米です。

「棚田を潤している水は周囲の山から湧き出した清流なので、本当にきれい。この辺りは生活排水も全然入らないですしね。
それに、この地区は寒暖の差が大きいから、美味しいお米ができるんです。
鬼木棚田米も、たくさんの人が買いに来てくださいますよ。」

お味噌だけでなく、梅干しや柚子胡椒、地元の野菜をお味噌で漬け込んだ「清流漬け」なども人気。季節の野菜は旬の時期に収穫して塩漬けしておき、仕込んでいます。

さらに、若い人でも年配の方でも手軽に食べられるようにと開発した、フリーズドライのお味噌汁も大ヒット商品に。
軽くて日持ちもするため、ギフトにも良いと喜ばれています。

これらの商品は「鬼木加工センター」で販売しているほか、スーパーや直売所などに卸したり、全国発送も行っています。
特に、福岡や東京に送ることが多いんだとか。県外に出られた方が、地元の味を求めて注文してくださるそう。
(電話・FAXで注文可能。FAXは電話と同じ番号です。)

波佐見ポートレイト|波佐見農産物 鬼木加工センター

春と秋の2回行っている「無添加の味噌づくり体験」も好評です。

「体験の内容は、麹に塩を混ぜて『塩切り麹』をつくって、茹でた大豆を潰して混ぜ合わせ、袋に詰め込んだものを自宅にお持ち帰りいただくというもの。
前もって準備しておくので、だいたい1時間半くらいの作業工程になります。
自分でつくった味噌はやっぱり美味しいですからね。リピーターさんも多くて。」

また、ヨモギを摘んで草もちをつくったり、コンニャクづくり体験なども行われています。

波佐見ポートレイト|波佐見農産物 鬼木加工センター

右から楠本さん・富永さん・岩崎さん・石橋さん。

──お仕事のやりがいを教えてください。

「みなさんから『美味しい』と言ってもらえるから、続けられています。
東京などにお送りすると、いつも『美味しいお味噌をありがとうございます。頑張って作り続けてくださいね』というお言葉をいただくもんだから。
やっぱり辞められないよね~って。」

──今後のビジョンや目標は何ですか?

「後継者ができたら良いんですけどね。
ここの仕事は大変なんですよ。中腰での作業が多いし、重いものを抱えないといけないし。
だから、なかなか人手が足りなくて。
私たちも、いつまでやれるか分からないですけど、どうにかして続けていきたいとは思っています。
観光協会で販売するクッキーづくりも毎週やっているし、そういう仕事がずっと入ってきているので。
この状態を維持していけるよう、やれることを頑張っていかないとですね。」

鬼木の味を残していくために、手間暇をかけて、昔ながらの味噌づくりに励んでいる楠本さんたち。
その懐かしい味を、全国の多くのファンが待っています。

かく言う私も、こちらのお味噌が大好き!
ほっとするような優しい味を、いつまでも食べられたらなぁと願っている一人です。

──私の波佐見のイチオシ!

「波佐見焼を見に来た人を案内するのは、いろいろな器が揃う『くらわん館』ですね。
それから、鬼木郷のお隣の地区の『中尾山』。そちらにある窯元も今、若い人たちが頑張っていて、良い焼き物がいっぱいありますよ。」

*2021年1月インタビュー
*撮影の時のみマスクを取っていただきました。

波佐見農産物 鬼木加工センター

長崎県東彼杵郡波佐見町鬼木郷990−5
営業時間/8:30〜12:00 13:00〜17:00
TEL/0956-85-7416
定休日/日曜