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2021.4.24

陶房青 |望月祐輔さん

波佐見ポートレイト|陶房青・望月祐輔さん

陶房を継承し、波佐見に根を張る。

「陶房青」の器は、伝統的な染付から可愛らしい絵柄まで、幅広いデザインが魅力。
家庭用の一般食器をメインに、濃(だみ)の手法や手描きを取り入れたアイテムを幅広く提供しています。

*「濃(だみ)」とは絵付けの技法。素地に線描きされた輪郭の中を、呉須(ごす)を含ませた太いダミ筆で塗り潰していく。筆を指で押さえて呉須の量を調整することで、色の濃淡の表現が可能。

陶郷・中尾山に佇む、素敵な雰囲気のギャラリー。観光パンフレット『波佐見スタンダードマニュアル』の作成時には、モデル撮影させていただきました。

そんな「陶房青」が2020年1月、新体制になりました。
1972年に吉村聖吾さんが創業した「有限会社 吉村陶苑」から「合同会社 陶房青」へ。
新たに代表となったのは、陶房青を支えてきたメンバーの一人、望月祐輔さん。
暮らしの中で、ほっと心のなごむような焼き物づくりが、今も受け継がれています。

「2019年に一旦解散となり、私が代表として、残った従業員と一緒に新しい体制で引き継ぐことになりました。
先代が育て上げた『陶房青』というブランドを継承して器をつくっています。」

望月さんの出身は千葉。
それも、もとは住宅メーカーの設計をしていたという異例の経歴です。

「関東で住宅メーカーの設計を4~5年していました。
ずっと焼き物が好きで、最初は見て楽しんでいたのですが、やっぱり自分でも作ってみたいとの思いが芽生えて。
ちょうど仕事を辞めて、何かできないか探してみようというタイミングだったんです。
その当時、伊万里に職業訓練校の陶磁器科があって、そこで勉強しながら仕事を探せたらなと思い、九州にやってきました。」

一念発起し、29歳で関東から移住してきた望月さん。
職業訓練校に通っていた時、知り合いに先代を紹介してもらったのが縁で「吉村陶苑(陶房青)」に就職。
そのまま17年間、先代のもとで働き続けました。

九州に来た当初は、修行を数年したら地元に戻り、一人でこつこつ作っていこうと考えていたんだとか。
想像していた働き方とは異なる道を進み、波佐見に根を下ろすことに。

「焼き物といえば『陶芸家さんの作品』というイメージを持っていました。
会社組織でつくるものとは考えていなかったので、こちらに来て、分業の仕組みが当たり前なことに驚きましたね。
絵付け一つとっても、線を描く人、太い筆で塗る人と、分けて作業するのだと、はじめて知りました。
実際に働いてみると、分業の形態が普通なので活動しやすく、資材なども手に入れやすいので良い環境だなと思います。」

「波佐見は、好きな焼き物が身近にたくさんあるし、時間も穏やかに流れている感じがして、自分に合っていたんでしょう。
結局、どっぷりハマってしまい、ここの人と結婚して家族もできました。
いまさら満員電車に揺られるような、せわしい日々に戻りたくないという思いの方がもう強いですね。
田舎での暮らしも良いなと。
自宅の近所で空いている田んぼを借りて、お米をつくったりもしているんですよ。
妻の実家が農業をしているので、機械なんかは使わせてもらって。
収穫したお米を、千葉にいる両親も楽しみに待っているみたいです。」

現在、望月さんは会社全般の管理をしながら、釉がけをして窯を準備する作業を主に担当。
さらに、「型打ち」の器をつくったり、「しのぎ」などの装飾を施したりもしています。

*「型打ち」とは、ロクロでつくった生乾きの素地を、型にかぶせて変形させ、輪花皿や八角鉢のような非円形の器をつくる技法。高台はロクロで削り出すため円形となる。手間はかかるが、複雑な形の器ができ、また成形と同時に陽刻(浮き出した)文様を施すことができる。

「経理など慣れない仕事も多く、まだ自分たちの商品を新たに開発する余裕がないのですが、いずれは新シリーズもつくっていきたいですね。」

親がやっていた家業を継ぐのとは、また違う覚悟が必要だったのではないかと思います。
代表を引き受けることに、葛藤などはなかったのでしょうか?

「もちろん、すんなりと決めたわけではありません。
私だけでは続けていくことはできないので、絵付けの子たちに『自分が代表をするという形でやりたいんだけど、残ってくれますか?』という話をして、彼女たちが了承してくれたから、今があるという感じです。」

波佐見ポートレイト|陶房青・望月祐輔さん

右から田中さん・黒木さん・望月さん・豊島さん・吉村さん。

「手描きで絵付けできる人がどんどん減っている中、彼女たちは染付から、焼き上がったものに色絵をつける上絵の商品まで、すべてをこなせる貴重な存在なんです。
3人とも、それぞれに得意分野はあるんですけど、何をやらせても描ける。
だから、以前の商品も全部引き継ぐことができたし、新しいものを作る際にも、いろんなことに挑戦できるので、私もやりがいがあります。
これならやっていけると踏み切れたのは、彼女たちのおかげですね。」

絵付けをされている方たちの中には、望月さんよりも前から陶房青で働いていた方も。
心強い仲間が、新たな船出を支えています。

波佐見ポートレイト|陶房青・望月祐輔さん 波佐見ポートレイト|陶房青・望月祐輔さん

そして、きっと先代の吉村さんも、自分が築き上げてきたものを託しても良いと、望月さんに厚い信頼を寄せていたのだろうと思います。

「先代が、既存の商品もすべて私に任せると言って、快く継承させてくれたことが一番重要だったかもしれませんね。」

──お仕事のやりがいを教えてください。

「完成品が窯から出てきた瞬間の喜びは大きいですね。
仲間と『そうそう、こういうのがつくりたかったんだよね!』と語り合えるものができた時は楽しいです。もちろん失敗も多くありますけど。

それから、購入された方が料理を盛り付けた写真や、子ども用食器をお子さんが喜んで持っている動画などをSNSにアップしてくださっているのを見ると、使っていただけているんだなぁと、しみじみ実感して、とても嬉しいです。」

ほのぼのとした動物の絵柄がなんとも愛らしい、子ども用食器。
絵の具を和紙に染み込ませて描く「和紙だみ」という技法で一つ一つ絵付けされています。
和紙ならではの風合いによって、柔らかく温かみのある表現に。
手描きでお子さんの名入れもしてもらえます。

波佐見ポートレイト|陶房青・望月祐輔さん

大人用と子ども用がセットになった「親子マグ」は、出産祝いの品にぴったり。
新しい命のお祝いと、一番がんばったお母さんへの労いの気持ちが込められているそうです。
(あれ、お父さんの分は?という方もご安心を。大中小の3サイズ揃った「家族マグ」もあります!)

なお、子ども用食器の売り上げの一部は「おぎゃー献金」に寄付されています。

──今後のビジョンや目標は何ですか?

「今は卸販売がメインですが、ネットなどを通じてお問い合わせいただいた個人の方に提供することも増えてきました。
商社さんに卸していくだけでは、なかなか厳しい時代が来ているので、ギャラリーや直接販売できる売り場など、間口を少しずつ広げていって、実際に商品を使われる方と話をしながら、ものづくりをしていけたら良いなと思いますね。
もちろん、地元の商社さんも大切にしていきながら。」

──私の波佐見のイチオシ!

「おすすめは『点心屋台くまや』。料理が美味しくて、店内の雰囲気も好きです。
波佐見には今までなかったような感じのお店ですね。」

作業場の扉に貼られた似顔絵は、絵付けをされている黒木さんが描かれたもの。
それぞれの雰囲気を捉えた絵からも、仲の良さが感じられます。

温厚篤実な人柄が伝わってくる望月さんを筆頭にした「新生・陶房青」は、素晴らしいチームワークで、新しい世界へと漕ぎ出したばかり。
これからどのような景色を見せてくれるのだろうと、期待が膨らみます。

*2021年2月インタビュー
*撮影の時のみマスクを取っていただきました。

陶房青

長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷982
営業時間/平日8:30~17:00(ギャラリー見学可)
TEL/0956-85-4344
定休日/土・日・祝
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