2016年7月15日(金)。
フォトワークショップ視点採集「博多祇園山笠/追い山」編を開催しました。
「視点採集」とは、ひとつの視点を通して撮影をすることで、今まで気付かなかった見方や新しい視点を蒐集しようというワークショップです。同じ時間に同じ場所を歩いていても、参加者それぞれの視点が異なることで、全く違うストーリーが生まれます。一緒に巡った人たちが撮った写真を見、発表を聞くなかで、自分にはなかった新しい視点を発見できるのも、このワークショップの魅力です。
①どんな「視点」で撮るかを決めて撮影・・・
何気なくシャッターを切るのではなく、1枚1枚を大事に、意識しながら考えて撮ることで、
写真に「自分らしさ」が表れてきます。自分はこういう「情景・光・色・形状」が好きなんだと改めて気付いたり。
②写真をセレクト・・・
撮った写真の中から、自分の視点・テーマに沿った10枚をセレクトします。
ひとつの視点で撮られた写真をまとめて見せることで、テーマがより強く伝わります。
③発表・・・
写真をプロジェクターで投影しながら、どういう視点で撮ったのかを自分の言葉で発表します。
他の人が撮った写真を見ることで「こんな切り取り方があったのか!」という新たな発見や、様々な刺激も。
今回の視点採集は、博多祇園山笠のフィナーレを飾る「追い山」が舞台でした。集合時間はなんと早朝の4:30!徹夜で来られた参加者の方もいらっしゃいました。
締め込み姿の男衆と見物客でごった返す博多のまちで、熱気と興奮の渦に巻き込まれ、勢い水(きおいみず)に濡れながらの撮影。
勢いよく駆け抜ける舁き山の迫力、そして祭りの高揚感に、思わず「視点」を忘れて、純粋に山笠を楽しんでしまう場面も…。いやぁ、本当に面白かった!感動しました!
朝の撮影が終わったら一旦解散し、夜にエフ・ディの事務所へ集まっての発表会。視点採集に過去2回ご参加いただいているM.Aさんも、オブザーバーとしてお越し下さいました。
参加する度に痛感する、視点採集の「難しさと面白さ」。視点をひとつに決める・その視点で写真を撮る・短時間で10枚に絞る…どれもなかなか手強いのですが、悩み苦労したからこそ、自分でも思いがけないような写真が撮れたり、いつもなら注目しなかったようなところに意識が向いたり。そして、撮ったその日に、撮影者の想いを聞きながら写真を見るというライブ感!これは普段、滅多に味わえない面白さです。皆さんの発表を聞きながら、今回も「なるほど〜!」と思わず唸ることしきりでした。
平日の、しかも「早朝の撮影・夜の発表」という、いつもとは異なるイレギュラーな開催方法のためどうなることかと少し心配していたのですが、ご参加いただいた皆さんのおかげで、とても刺激的で楽しい視点採集となりました。どうもありがとうございました!^^
それでは、皆さんの採集されたコレクション(写真と視点)をご紹介いたしましょう。
講師の石川博己による講評とともにお楽しみください。
視点採集コレクション紹介
【1】M.Iさん 女性(Panasonic LUMIX /digital)
〈M.Iさんの視点〉
出身が東北の方で、福岡に来て7年くらいになりますが、追い山を一度も見たことがありませんでした。
毎年「見ようかな」と思って、朝、テレビ中継をつけるものの、すぐにまた寝てしまって…。(笑)
写真は本当に初心者なのですが、今回「山笠を生で見てみたい!」という強い思いで参加しました。
テーマは「緊張感と期待感」です。
お祭りの担い手たちの「緊張感」と、自分を含めた見物人たちの「期待感」という視点で撮りました。
あまりに暗くて、日が昇るまでシャッターを切るのは止めておこうかなと思ったのですが…。
これから追い山が始まるという、夜明け前の緊張感を写しました。
こちらは、たくさんの見物客たちが追い山への期待をもって写真を撮っているところです。
山笠が目の前を走っていく迫力ある姿を、前方から撮影しました。
自分が一番楽しんで追い山を見てしまいました。
勢い水がバシャバシャとかかるところで、自分も一緒に浴びながら、しゃがんで下からあおって撮っています。
交通整理をしていた、おじいさんの手の写真です。
おじいさんとお孫さんかな?が、手をつないで一緒に参加している姿をたくさん見ました。
きっと博多の人たちにとって、山笠が一番の楽しみなのかなと、羨ましく思いました。
参加した早朝から、ずっと感じていたのは「お酒くさ〜い」ということ。
初めて福岡に来た時に「山笠に出る人は、その日は仕事をしないで、お酒を飲んで終わるんだよ」と聞き、
自分の故郷にはそのような文化が無いので、とてもビックリしたのを覚えています。
日本全国に、山笠と似たような形で、お神輿を担いで練り歩くお祭りがありますが、
山笠はタイムを競っているので、まるで騎馬戦のように「戦っている」感じがあって、格好良いなと思いました。
大博通りの辺りで撮った写真が続きます。
オフィスビルが建ち並び、普段は車の通りも多いのに、山笠の時は通行止めになって、
早朝に皆でお祭りを楽しんで、数時間後には、また元に戻っているのも不思議だなぁと。
〈M.Iさんの感想〉
とにかく楽しかったです!
朝は早いし、間に仕事を挟んで、夜から発表だし、参加するかどうか、すごく迷っていたのですが
参加して本当に良かったと思います。
〈石川の講評〉
東北出身のM.Iさんの、初の博多祗園山笠「追い山」見物。
今回の視点テーマは「緊張感と期待感」とのこと。
一分一秒を競い合う舁き手の真剣さとスピード感を上手に切り取っていますね。
スタート前の緊張感と、一秒でも早くと駆け巡る山笠のスピード感もよく出ています。
4枚目のローアングルからの1枚は、よりスピード感を感じさせる迫力ある構図ですね。
勢い水が地面に勢い良く降り注ぐ瞬間も写っています。
M.Iさんが今回初めて見る「追い山」へのワクワク感(=期待感)がすべての写真に感じられますね。
祭りの熱気がもう一度蘇ってくるようです。
来年もぜひまた一緒に撮りに行きましょうー!(朝の4:30集合ー!)
【2】H.Mさん 男性(Nikon D700 /digital)
〈H.Mさんの視点〉
僕も山笠に行ったことがなかったので、単純に見てみたいというのが応募した動機です。
今回撮るにあたって、どういう視点が良いのかなと悩みました。
石川さんからのすごいプレッシャーもあって。(笑)
(スタッフ注記:石川が「まさか“夏の始まり”とか、そんな安直なテーマにはしないよね?」等の圧をかけておりました。)
僕は山笠のことをあまり知らなかったので、2時くらいに行って、追い山のコースを事前に歩いてみたのですが、
ずっと寝ないでお酒を飲んでいる人や、コースの準備などをする人、
意外と普通のことをしている人など、様々な姿を見ました。
7月1日から山笠がスタートし、色々な行事を経て、ものすごく頑張って、
最後の追い山の本番1時間という一瞬に全てをかける。
しかも、夜のまだ暗い時間に始まり、朝の6時には終わってしまう。
そんなところに「現実か夢か分からない」感じがして、
「夢」というテーマで、どうしたら「夢」感が出せるかなと考えながら撮影しました。
僕が最初に見たのがこれで、商店街の通路に飾り山がデーンとあって、そこだけライトアップされていました。
他はまだ暗いのに、ここだけが明るくて、僕の中でなんだか違和感があり、
「あんまり現実的じゃないな。ちょっと夢っぽいな。」と思って撮りました。
山笠が走っている時にかける水をためています。追い山のコース沿いに死ぬ程ありました。
これも僕にとってはあまり見慣れない光景で、
山笠の時だけなのでしょうが、道路の脇に、水桶としてバスタブとかも置いてあって、
「なんだこれは。やるなぁ!」と。
夢って、断片的に印象に残っているというイメージがあるので、そんな感じに見えるよう撮りました。
山笠の詰め所。もう誰もいなくて、気配だけが残っていました。
人が入ると現実感が出てしまうと思ったので、なるべく人がいないところを選んで撮っています。
ブレブレなのですが、追い山の本番前、山笠を舁く人たちが
走っては、お店の戸を叩いて挨拶をして帰っていくという謎なことをしていて、
「何だろうな、これは。怖いな。」と思いながら撮りました。
夢のような、現実じゃない感じが僕の中であったので。
あの辺には、いっぱい駐車場があるのですが、けっこう満車になっていて、やっぱり人が多いんだなぁと思いました。
誰もいない道に、ぼや〜っと赤く光る「満」という文字がたくさん浮かんでいる様子が
不気味で非現実的な感じがして撮りました。
警備員さんが、まだ本番前だったからか、完全に抜け殻状態で座っていて、いいなぁと思って撮りました。
本番でこれだったら、絶対にめっちゃ怒られると思います。
夜が明けてきて、朝焼けがとても綺麗だったので撮りました。
今までは暗い時間帯のものだったのですが、
「いよいよ追い山が始まってきたな」という、ちょっとザワザワした感じと
時間の変化を入れたくて、この写真を選びました。
どうやったら山笠を夢っぽく撮れるかと考えた末、ブラしてみました。
山笠の人たちをブラすことで、その「勢い」だけが頭のなかに焼き付くかなと思って。
でも、意外と走るのが遅くて、あまりブレず…。(苦笑)
何回か撮ったうち、一番ブレていたのを選びました。
水がバシャッとかかっている感じとか、掛け声とか、そんなエネルギーが感じられるようにと工夫しました。
あっという間に追い山は終わってしまい、皆が帰り出した瞬間です。
大量の水がかけられた道路の上を歩く山笠の男衆と、
終わった途端、自転車に乗り普通に帰っていく見物客。
ちょっと「夢覚めそう…」みたいな。
で、最後に「夢覚めた」と。
すごいゴミの量でした。
「祭りが終わった感」「夢が終わった感」が出るかなと思って入れてみました。
〈H.Mさんの感想〉
僕も山笠は初めてでしたが、行って良かったなと思います。
「緊張感と期待感」という視点で撮られていた方もいらっしゃいましたけど、
本当にあのワクワク感やドキドキ感、
そして、大のオトナが叫び、皆が一体となる雰囲気は、すごく楽しかったです。
自分の子どもがもう少し大きくなったら、山笠に連れていってあげたいなと思いました。
ありがとうございました。
〈石川の講評〉
集合場所に来た時に目が赤いなと思っていたら、ワークショップの開始時間より前からすでに視点採集をしていた
フライング気味のH.Mさん。
会社が終わって寝ないでワークショップに参加したテーマは「夢」。
「現実か夢か分からない」感じの写真ということで10枚を見せてくれました。
薄暗い商店街の中を歩く人たちと、ボゥっと明かりの点いた看板が、
映画『千と千尋の神隠し』の中で登場する神様の街のようです。
あえて人がいないところを選んで撮ったという、山笠の詰め所の写真に、
重ねられたジュースのコップが残されているのも印象的です。まるで僕らには見えない何かがいるようです。
あれだけ人がたくさんいた祭りなのに、すべての写真で、ひとりもきれいに写っていないのが
このテーマの「夢」をより強く感じさせます。
オールで挑んだこの視点採集。ナチュラルハイの状態でキレキレの撮影をしましたね。
おつかれさまでした。おやすみなさい。
ちなみに、H.Mさんの過去の視点採集はこちらでご覧いただけます。^^
視点採集「那珂川町」編レポート(コレクション紹介【1】視点「引っ越し候補地を見に来た」)
視点採集「箱崎」編。〜参加者の写真〜(視点「光」)
【3】K.Nさん 男性(FUJIFILM X-E2 /digital)
〈K.Nさんの視点〉
視点採集には初めて参加させていただきました。
山笠はこれまで結構見ていて、櫛田入りのところに張り付いて見たことが過去に4度くらい。
それから冷泉地区でまちづくりの仕事に3年ほど携わっていたので、
西流れの人たちに知り合いも多かったのですが、
ただ、写真を撮ったことは、これまでほとんどありませんでした。
今回は山笠の写真が撮れると思って参加しました。
カメラはミラーレス一眼に50mmのロシアンレンズを付けたもので、マニュアルフォーカスで撮っています。
50mmレンズなので、画角は75mm相当ですね。
最初は「犬の見た博多祗園山笠」という視点で、
撮影ポイントを地上から30cm以内にして臨もうと現場に行ったのですが、
まぁ、無理だったという…。(笑)
そこで急遽変更し、テーマを「視線の先にあるもの」にしました。
視線の先には「見ているもの」が勿論あるわけですが、実は「見えないもの」も見ているのではないかと。
こういうお祭りの時は特に。
過去から未来に向かう、時間という見えないものだとか、
今見えているものの背後に隠されているものだとか、
それぞれの人の眼差しの先には、何か色んなものがあるのではないかと思い、
そういった様々な眼差しを撮ろうと思って臨みました。
最初の方はすごく暗いのですが、時間が流れていくのでロードトリップのようでもあります。
これから舁き手になる人たちが壁に張り付いて、自分のヤマが来るのを待っている場面です。
男衆の目線には、今から舁くぞ!という集中力がすごく出ていて、
自分が今から動いていくんだっていう思いが込められているように見えます。
明らかに観光客っぽい人たち。
すごく物見遊山的で、まさに絵に描いたような「興味本位」という視線。
座り込み方も割と慣れている感じがします。(笑)
まだ追い山の出発前の光景です。
山笠の男衆のなかでも若手の彼らが、先程のおじさんたちとはまた違う気合いの入り方で、
群衆を背後にし、少し遠くを見ている感じがいいなぁと思って。
ヤマが来るのを待っている「ごりょんさん」。
「やっと来た」という感じで見ている視線に、ヤマへの憧れや
旦那さんとの思い出に浸っているようなものを瞬間的に感じたので、即座にシャッターを切りました。
いっぱい可愛い女の子もいたのですが、これ1枚しか生き残りませんでした。
山笠そのものの活気や賑やかさはすごく魅力があるんですけど、
スマホで撮りながら、こういう目線を投げかけているのも魅力的かなぁと。
今回、一番感動したシーンです。
大博通りの緑地帯の中で、手を合わせて祈っている、おばあちゃん。
近付いてくる山笠に向けた目線の先に、どういう想いがあるのだろうと。
西流れの山笠の解体をしているところで、信号の横の柱によじ登り、しがみつきながら見ている親子がいました。
これから何を引き継いでいくのだろうという思いと、抱きかかえている後ろ姿が美しくて、つい撮ってしまいました。
これはピントをわざと外して撮っています。
山笠を解体した後、これから向こうにバーッとすごい勢いで行ってしまうのですが、
飾りが何も無くなってしまったヤマの向こうに茫漠と広がっている、目に見えないものが
やはりすごく大事だなという感じがしたので。
これはまた別のヤマなのですが、解体しているところを見ているおじいちゃんの目に
「これで今年も終わりか」という思いが感じられます。
今まで何十回もこの場面を見てきているのでしょうが、切なそうな顔がすごくいいなぁと思って、
その視線を撮らせていただきました。
御神体である山笠が、櫛田入りをした後、まちに戻ってきて台から神様が下ろされるわけですが、
神様が周りを見ているということを、すごくこの像が表しているように思います。
そこに集まっている「僕ら人間が見ている」だけでなく、
「神様が地区や町内の人を見晴らして、いつも見守っている」という、別の種類の視線です。
〈K.Nさんの感想〉
今日は朝早くから、どうもありがとうございました。
山笠を取り巻く様々な視線の先にある、色んなものを見つめた3時間でした。
写真を10枚に絞るのはちょっと大変だったのですが…。
山笠は何回も見ていますが、お祭りが終わった後のダラーッとした「フヌケ感」がものすごく好きなんです。
もう何もかも本当に終わって、緊張感が全て消えてしまったダラダラ感。
そこに至るまでの数時間の密度の濃さは、どんな町のお祭りよりも一番強いんじゃないかなと思います。
あのダラダラ感をどう楽しむかが来年の課題かなと。
また良かったら来年も宜しくお願いします。
〈石川の講評〉
視点採集に初参加のK.Nさん。
「犬の見た博多祗園山笠」というテーマで、地上30cmでの撮影を計画されていたそうですが
あの人だかりの中でやっていたら、もうボロボロに踏みつけられていたでしょう。(笑)
そこからの新しい視点テーマ「視線の先にあるもの」。これもまたいいですね!
カメラは目の前のものを見て(撮って)いるわけですが、山笠を見ている人を見て(撮って)いるというのが面白いですね。
写真に写る人たちの視線の先を想像することで、いろんな景色が浮かび上がって、
またその一つ一つに勝手にストーリーを作って見てしまいます。楽しいですね。
写真には被写体との関係性が写ると言いますが、
これらの写真は、写っている人たちのその視線の先にある人との関係性を写しているというのもいいですね。
博多祗園山笠のクライマックスの追い山を見ながら、追い山らしい写真が一枚もないのも、
撮影者のK.Nさんの明確な視点があるからこそ。
すばらしい視点採集でした。
それと、不慣れな僕たちに山笠の見どころやコース案内までしてくださり、ありがとうございました。
【4】Y.Sさん 女性(PENTAX K-5 Ⅱs /digital)
〈Y.Sさんの視点〉
私は福岡に住んで10年くらいになりますが、追い山を見たことが一度もありませんでした。
先日、友人の結婚式に行った時に、博多っ子である友人のお父さんやおじさんたちが「祝いめでた」を歌い始めたのです。
ご唱和をお願いしますと歌詞まで渡されたのですが、まったく分からなくて…。
でも、博多の皆さんにとっては、そうした伝統的なものが、すごく大事なのだろうなということが、
その結婚式でなんとなく分かりました。
今回、視点を決める時に、博多を代表する祭りである「山笠」とは何なのだろうと改めて考え、
自分が女性だということもありますが、山笠での女性の姿を撮ることで、
山笠がどういう祭りなのかが伝わればと思い、「女性と山笠」というテーマにしました。
たぶん、H.Mさんには負けるかもしれませんが、写真にヤマがほぼ写っていません。(笑)
女の子が勢い水をかけるために待っているところです。
小さい女の子の姿から、山笠はきっと家族みんなで参加するような行事なんだろうなっていうことが伝わります。
ヤマが通る道沿いの2階に住んでいるお嬢さんが、窓を開けて写メを撮ろうとしていました。
彼女にとっては「気にはなるけれど、外まで出るほどのことではない」という感じのお祭りなのでしょう。
お店の前で、女性がものすごくテンション高めで勢い水をかけていました。
ヤマが通る付近のお店の方は、こういう風にイベントに積極的に関わって楽しむものなのかなということが、
この女性たちの姿から伝わると思います。
お母さんがお子さんに山笠の格好をさせて、ヤマを見せています。
もしかしたら、この子も将来は、山笠に携わるようになるのかもしれないなと感じさせる写真です。
韓国の方だと思うのですが、観光客の女性が、彼氏に肩車をしてもらって写真を撮っていました。
外国人の女性にとっても、それほどまでに興味を持つような祭りなのかなと。
こんなに必死になって撮るんだなと驚きつつ、とても目立っていたので撮らせていただきました。
これも勢い水をかける女性の姿です。
小さなバケツを手に、頑張って水をかけていましたが、彼女はあまり慣れていない感じでした。
それでも一生懸命にやろうと思うような祭りなんでしょうね。
「山笠の女性」のイメージって「中洲で飲んだお姉さん方が、その足でそのまま山笠を見に行く」だったのですが、
結局、そんな姿を見ることができませんでした。…私のイメージ、間違ってますか?(笑)
(「俺に聞くなよー」という声が。)
勢い水で濡れた路面に反射して映っているのが綺麗だなと思って。
ヤマを舁いていた男性と、浴衣の女性が通るタイミングをすごく狙って撮りました。
山笠は浴衣を着て参加するお祭りなんだなぁって、今日初めて知りました。
たぶん旦那さんの記念撮影をしている女性です。
男性が誇らしげに山笠に参加する姿を、奥さんが応援するような祭りなんだということが伝わる写真かなと思います。
ヤマを解体しているところを、自転車に乗った女性が立ち止まってずっと見ていました。
きっと「人ごみで行くに行けないし、何をやっているのか、ちょっと興味あるし、見てみようかな?」というのが、
彼女にとっての山笠なんだろうなっていう1枚です。
〈Y.Sさんの感想〉
今回のような機会でもなかったら、山笠の写真を撮ることもなかったと思うので、
この機会を頂けて良かったです。ありがとうございました。
今、すっごく眠いです。
〈石川の講評〉
こちらもH.Mさんと同様、山笠が一枚も写っていないという潔さ!
視点テーマは「女性と山笠」です。
Y.Sさんは視点採集「箱崎」編では「上を見る、見上げる」というユニークなテーマで撮影されました。
その時の独特のアングルの写真が強く印象に残っています。
今回も、そんな視点があったか!というような驚きから始まりました。
必ずしも皆が熱狂しているわけではない、博多祗園山笠を見物する人たち(とくに女性クローズアップ)。
これを見ると、祭りの主役である男衆たちは、女性たちに見られることを意識しているように思えますね。
女性からの応援や視線があるからこそ気合が入る、そんな風に思えてしまう写真です。
かっこいい姿を見せたい男と、かっこいい男を見たい女。本質を写すテーマなのかもしれないですね。(笑)
腹は出ないようにしないとな!と、Y.Sさんの発表を聞きながらひとり思う石川でした。
久しぶりに会うY.Sさんがすごくシャープな面持ちになっていたので、聞いたらジムに行っているとのことでした。なるほど。
【5】スタッフ林 女性(Nikon FM2 /film)
〈林の視点〉
山笠は「静と動の祭り」とも言われているそうです。
前半の静かな行事と、後半のヤマが走る勇壮な祭り。
また、ヤマにも「飾り山笠」と「舁き山笠」があるなど、二面性のあるお祭りだなと思い、
「山笠だからこそ見られる“対比”」というものに注目して撮りました。
山笠が始まる際に、町内を清める「注連下ろし」という行事があるそうです。
山小屋を建てる場所の四方の道路の出入口に、注連縄をはった青笹を門状に立て、
竹で作った御幣(竹串御幣)を飾って神域とするのだとか。
信号やビルのある街中に、山笠の時期になると、突然「神の領域」が現れる…。
その「日常の空間」と「神の領域」の対比ということで撮りました。
視点を定めた時に「明暗」という対比を撮りたいなと思っていて狙った1枚なのですが、
まだ辺りが暗い中、ISO200のフィルムで撮るのはなかなか難しく、ブレブレのボケボケになってしまいました。^^;
「暗闇」と、浮かび上がる「提灯の光」の対比。
そして、今まさに追い山が始まろうとする緊張感のなか、「静」から「動」へと移り変わる「はざま」の時間です。
舁き山笠の「勇ましく薙刀を振るう弁慶」と、
それを写真に収めようと「スマホを掲げる現代の人々」との対比。
山笠の台の上に座り、鉄砲と呼ばれる赤い指揮棒を振り上げた「台上がり」の人との対比も面白いなと。
「おじいちゃん」と「子ども」の対比です。
さらに、後方に写っている、ヤマが来るのを今か今かと待ち構えている見物客たちと、
そんなことには全く興味が無いかのように背を向けて、無邪気な笑顔を見せている子どもとの対比も。
本当は水法被に締め込み姿の男衆を撮ろうと思っていて、ブレて失敗してしまったのですが、
その結果、「日常」と「(山笠の)非日常」という別の時間・空間が重なり合っているように見えたので、
面白いなと思って選びました。
でも、よくよく考えると、この男衆が写っていなかったとしても、
普段はこのように車道の真ん中を堂々と歩くなんて考えられないので、やはり「非日常」が写っているなと。
山笠の法被を着た男衆をたくさん見ていたので、いつもなら何も感じずに見過ごしていたマンホールの模様さえ、
長法被の柄のように見えてきました。
自分の見方が変わることで、ただのマンホールが別の意味を持つように感じられる面白さ。
舁き山笠は、奇数番を「差し山(男山)」、偶数番を「堂山(女山)」と呼ぶそうです。
そして、差し山には「大神宮・櫛田宮・祇園宮」(櫛田神社の三神)の神額が掲げられています。
この写真はその「神額」と、後ろの「保険」という文字の対比で、
神頼みと保険、人は一体どちらに安心を得るのか?…ということで撮りました。
追い山が終わった後の、「山崩し」と言われる山笠の取り壊し作業を見物している人たちのギュッと集まった感じと
何も無い道路の「疎・密」の対比。
また、山崩しに熱狂する群衆と、冷静に交通整理をする人との対比も面白いなと思いました。
山崩しを遠くから見守っている男衆の後ろ姿に、
無事に終わってホッとした安堵感や感慨深さ、祭りの後の寂しさや哀愁など、さまざまな想いが感じられます。
普通に通り過ぎていく人との対比によって、そうした空気がより際立つのではないかと。
山笠が終わった後に撮った一枚です。
ヤマを舁く男衆が履いていた地下足袋を、洗って干しているところだと思います。
「日常のありふれた風景」と、そのなかに在る「山笠の名残」との対比ということで撮りました。
〈林の感想〉
私も福岡市の出身なのですが、今まで山笠を見たことがなかったので、とても楽しかったです。
参加者の中には、以前にも視点採集に来てくださっている方もいたので、
その時の視点と今回の視点との違い、そんな「対比」にも注目しながら、
皆さんの発表を興味深く拝見させていただきました。
追い山はすごい人込みで、はぐれてしまわないように固まって、皆で一緒に行動していたので、
もしかしたら今回は、写真や視点が似てしまうのでは…と危惧していたのですが、
それは杞憂に終わりました。
皆さんの「目の付け所」には、いつも感嘆するばかりです。
素晴らしい視点のご披露、本当にありがとうございました。
〈石川の講評〉
いつもなかなかいい視点テーマを見せてくれるスタッフRちゃん。今回もなかなかキレキレです。
視点テーマは「山笠だからこそ見られる“対比”」。おおっ、難しいこと言うじゃねえか。どれどれ。
今回も愛機Nikon FM2。フィルム2本の潔さで切り取った写真はなかなか良い!
あの暗い状況でもうまく撮っているし構図もいいよ。
Rちゃんは頭がいいから、視点との関係性も「なるほど」と思う解説力。
1枚目の写真のビルと竹で作った御幣の写真がいいですね。
Rちゃんはいつも事前に撮影場所を勉強して挑んでいるので、
“なんの関連性があるのかレーダー”が、誰よりも一番感度が良いよね。
あてもなく”探している”んじゃなくて、“見つけている”感じの動きをしますね。
Rちゃんはスタッフでありながら、視点採集が始まると夢中になって「ただの参加者」になってしまうのが、
スタッフと参加者のひとり二役の対比で面白いなと思いました。
【6】石川 博己 男性(Canon 5Dmark2 /digital)
大トリを務めますのは、講師の石川の写真です。
〈石川の視点〉
約15年ぶりくらいに追い山を見ました。
前に見た時は、二眼のローライフレックスで写真を撮り始めた頃で、
櫛田神社のところで撮っただけでしたから、
ヤマを追って撮るなんていうのは、今回が初めてのことでした。
ローライは腰の位置に構えて撮るので、人と人の隙間から撮る感じで、人が多いと全然撮れないのですが、
今回は一眼レフで撮ったので、その時とは全く違う写真が撮れて楽しかったです。
テーマを考えていた時に思い出したドラマがあります。
前にテレビ放映されていた、オダギリジョー主演の『おかしの家』をご存知でしょうか。
東京の下町で、祖母の八千草薫が営んでいた駄菓子屋を孫のオダギリジョーが継ぎ、
経営状態が苦しいながらも店を守ろうと奮闘する姿が描かれたものです。
毎回、ストーリーの冒頭で彼が語る言葉。
「この駄菓子屋はいずれ確実に潰れる。
・・・
でも、この駄菓子屋がただ無意味で無駄なものだとはどうしても思えないのだ。」
大きな事件や劇的な出来事が起こるわけでもなく、
ただ彼を取り巻く人々との日常を切り取った、本当に小さな物語なのですが、
その中で一貫して伝わってくるのは、
めまぐるしく変わっていく現代において、
一見、無駄だと思えるものも、人の生活にとってはとても大切なんだということ。
山笠のようなお祭りも、僕らが働いて一年間を頑張るうえで、
すごく大切な行事だなと思います。
今年初めて、故郷の田川のお祭りを真剣に見たのですが、
とてもいいものだなぁと思いました。
友達や親戚に会ったり、学生時代に歩いていた道を通って昔のことを思い出したり、
その一日はすごく楽しかったし、気持ちも良かった。
見慣れた光景が、今もそのままあるという心地良さと、
変わらず続いてきたものが自分の思い出となり、
10年、15年、20年…と、自分の中にいつまでも温もりとして残るような記憶というものをテーマにして、
「変わらないもの・それがずっと記憶として残るもの」という視点で撮ってみました。
これから追い山が始まるという、昔から変わらない情景。
山笠の台にあがることを「台上がり」と呼んで、舁き手の中でも特に名誉なこととされています。
この時のことは一生の宝物として思い出に残るのだろうなと思います。
冷泉公園のところにある「カメラのゴゴー商会」。
ここには20年以上も前から僕は通っています。
いつもウィンドウショッピングと話をするだけなのですが、変わらずにあって安心する、すごく好きな場所です。
この女の子も、もうちょっと大きくなったら、こんな風に締め込み姿にもならないかもしれませんが、
おじいちゃんと一緒に山笠に出たという記憶は、大人になってもすごく残るのではないかと思います。
こういう子ども達がいっぱいいました。
昔もこの道をヤマが走っていたのでしょうか。
かつては無かっただろうビルが建ち並び、すごく様変わりしたにもかかわらず
こうした行事が残っていて、これからも変わらずにあるんだろうなと思うと、感慨深いものがあります。
山笠を担ぐための舁き縄を持った男衆が、担ぐのを代わろうとしているところでしょう。
掛け声をかける人、舁く人、押す人、皆で協力しながら団結してヤマが走って行く姿は、今も昔も変わらないもの。
昔からある、山笠用品だけを売っている店です。
ずっとこの商売を続けながら地域に根付いており、「ここがあるから山笠が保っている」というようなところ。
僕も時々ふらっと入るんですけど、おいちゃんがものすごく話してくれて、すごく好きな場所です。
久留米絣の法被がずらりと。昔から変わらずに、山笠の正装として着用されています。
最後の片付けの時に、櫛田神社の中に入って撮りました。
晴れた青空と清道旗のコントラストがすごく良くて。
皆が目指して周囲を回る、このシンボルも昔から変わらないものだなと。
追い山が終わると、即座に山笠を全部解体してしまうという、潔さのようなものも今回見られて、
自分の中に素敵な印象として残りました。
長年、受け継がれてきた伝統と心意気。
櫛田神社の周辺というのは、カメラを始めてから頻繁に撮りに行っていたのですが、
その中でも一番、印象深いのがこの場所です。
周りがどんどん変わっていく中で、この佇まいは自分が福岡に来た時から変わらずにあるので、
ここはずっと残ってほしいなと思って撮りました。
〈石川・総括〉
撮った写真の中から10枚をセレクトする時、毎回、皆さん苦労されます。
「良く撮れた写真」という基準で選ぶのなら、自分の好きな感覚で1位〜10位までを決めれば良いでしょう。
しかし、自分がどういう視点で撮ったかということを人に説明しようとすると、
その1枚がどういう意味を持っているのかを考え、前後の流れも考慮しながら、
どの写真を残し、どの写真を削るべきかと、悩むことになります。
「上手く撮れなかったけれど、この1枚は重要だから外せない」「この写真は好きだけど、テーマには合わない」等々、
12枚まで絞った中から2枚を削るのに、30分以上かかった方もいたくらいです。
でもそれは、ちゃんと「視点」があり、想いがあって撮った写真だからこそと言えます。
人の視点を見て、想いを聞いて、
「そういう見方もあるんだ」と気付くことができる。
そして、自分も見ていたはずのものを、新たな感覚で捉え直すことができる。
これが視点採集の良さであり、面白さだなぁと、つくづく思います。
皆さん、個性豊かな発表をありがとうございました。
今後の参考になるような、見事な視点でした。
今回、僕も山笠をしっかりと見ることができて、
福岡に長いこと居ながら、初めて「博多気質」というものに触れられたような気がします。
これまで「博多手一本」などをする機会もありましたが、単に儀式としてしか思っていませんでした。
でも今日は、自分も一緒に「おいさ!おいさ!」の掛け声を腹から大声で言いたい気分になりました。
あの一体感はすごく羨ましかったですね。
追い山のスタートの時に見た光景で印象的だったのが、
水法被に締め込み姿の中学生くらいの子を、
山笠に出ない、普通のTシャツ姿の友達が羨ましそうな顔で見ていた場面です。
きっと、山笠に出る人たちは皆、ヒーローなんですよね。
博多っ子の気質や人情に触れられて、本当に楽しい一日でした。
今回の経験を活かして、来年もぜひ山笠編を開催できたらなと思います。