Issue 2023.12

Issue 2023.12

デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2015.9.2

Report: 肥薩レトログラフィ vol.2

夏の終わりに、ノスタルジックな鉄路「肥薩線」を巡る旅へと行ってまいりました。

肥薩線とは、熊本・宮崎・鹿児島の南九州3県を縦貫する唯一の鉄道。
沿線には豊かな自然と、近代化の過程で日本が失ってきた様々なものが残る、魅力的な鉄路です。

球磨川の清流に沿って走る八代駅~人吉駅間は「川線」と呼ばれています。
本ツアーでは川線の鉄道遺産や沿線遺産などを見学します。

肥薩レトログラフィは2回目となりますが、前回よりも見学ポイントを絞り込み、
一つひとつをよりじっくりと見学できるように行程を見直しました。
(それでも盛り沢山なのですが…^^;)

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

このクリエイティブツアーはデザイン塾の校外セミナーとして行っており、
参加者には教材として冊子を配付しています。
ツアーで巡る場所について、歴史などの説明文と豊富な写真でご紹介するこの冊子。
1ページ1ページ丁寧に折って重ね、手製本で作っているんですよ。(冊子制作についてはコチラをご覧ください。)

それではツアーの模様をレポートいたしましょう。
今回のツアーレポートの写真は、三笠秀行さんに撮影をお願いしました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

2015年8月30日(日)。早朝7:30に出発です。
毎度おなじみ、伊都バスさんにお世話になります。
バスに乗り込み、熊本へと出発ー!

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

車内では、エフ・ディ代表の石川のご挨拶に始まり、スケジュールのご説明、参加者の皆さまの自己紹介など…。
今回はクリエイティブツアー初参加の方がほとんど。
なんと、大分から前乗りでご参加の方もいらっしゃいました。
福岡県立美術館で開催したクリエイティブツアー写真展を見て興味を持ってくださったのが
ご参加のきっかけとのこと。
嬉しい限りです。^^

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

さぁ、一つ目の見学ポイント、深水発電所が見えてきました。
しっとりと水分を含んだ空気のなか、濃い緑のグラデーションを背景に佇む赤煉瓦の建物は
絵画のように美しいです。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

皆さん、思い思いの場所にカメラを向けて切り取っています。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」 クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

クリエイティブツアーにご参加くださる方はカメラ好きの方がとても多いのですが、
もちろん、写真を撮らない方のご参加も大歓迎ですよ。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

続いては、樹々の深い緑とのコントラストが美しい、あの赤い橋を歩いて渡ります。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

肥薩線では、木造の駅舎や線路、橋梁、そしてトンネルなどの沿線施設が、
明治の開業以来の姿を留め、1世紀の長きにわたり現役で利用されています。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

今を遡ること100年以上前の1909(明治42)年、肥薩線は全線開通しました。
険しい山岳ルートのため、歴史に残る難工事だったといいます。
道なき山に作業用の道路を開き、人馬の力で資材を運搬したそうです。

また肥薩線は、崖崩れや大水害による駅舎の流失など、自然災害によく悩まされた線だったとか。

実際にツアーの数日前、大型の台風15号が九州に上陸し、
その影響で倒木や崖崩れが起こり、列車はツアー当日も不通のままとなっていました。
現在のような大型の機器なども無かった時代の苦労が忍ばれます。

この鉄路が1世紀を経た今もなお現役で活躍できているのは、
保守点検や修繕など、こまめに手入れをされてきたからこそでしょう。
その開通から現在に至るまで、人々の苦難と努力の物語が数多く刻み込まれています。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

お昼ご飯は、道の駅さかもと館でお弁当を準備していただき、皆さんで一緒に頂きました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

日本国内で初となる、本格的なダムの撤去工事が行われている荒瀬ダムを見学。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

続いては、球磨川第一橋梁へ。
ここで、人吉鉄道観光案内人会の立山勝徳会長と合流しました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

立山会長と、会の中では青年部の若手という“幸ちゃん”こと平川幸一さん。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

立山会長は、国鉄のOBで、SLの機関士をされていた方。
前回のvol.1の時にも人吉機関区車庫を案内していただいたのですが、
今回はこの球磨川第一橋梁から一日案内してくださることに。
人吉市の方が掛け合ってくださり、急遽ツアー前日に決まったのです。

その豊富な知識と経験から紡ぎ出される言葉の数々は、本当に興味深いものでした。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

台風の影響で列車が不通となって、たった数日でこんなにも草が生えてしまうのだとか。
植物の生命力にも驚かされます。
通常とは違う風景を見られたことは幸運でした。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

レトロな雰囲気の木造駅舎、白石駅へ。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

とても静かな場所ですが、かつては駅前に旅館なども建っており、とても賑わっていたんだとか。
「昔は構内のこの辺に売店があったんだよ」等々、往時の話を立山会長から伺います。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

古い映画の中に入り込んだような、ノスタルジックな気分に。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

お次ぎは球泉洞へ。
ドームが連なる不思議な建物・森林館を球磨川の対岸から見る予定だったのですが…。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

台風の影響で、川を渡るコウモリ橋のロープが切れてしまったため立入禁止に。
車で回れば行けるけれども、道が細いのでバスでは無理とのこと。
ショック…!
気を取り直し、球泉洞の鍾乳洞に行くことにしました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

あまりの涼しさにビックリ。よかトピアの南極館を思い出しました…。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

前日の集中豪雨の影響で地下を流れる川の水量も増して、勢い良く水しぶきを上げており
かなりのアドベンチャー感に、私の頭の中ではずっと「インディ・ジョーンズ」のテーマ曲が流れていました。

なかなか普段では体験できないことを経験できて良かったなぁと思っていると、
球泉洞の職員の方が、なんと車を3台、出してくださることに!
おかげで、当初の予定通り、球磨川の対岸から森林館を見ることができました。
本当にありがたかったです。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

しかも、本来であれば、かなりの山道を歩いて橋を渡って…と、往復するのは結構大変なのですが、
車で楽チンに辿り着けて…感涙ものでした。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

「槍倒しの瀬」も案内してくださいました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

球泉洞を後にし、お次は球磨川第二橋梁へ。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

ラフティングを楽しんでいる方達にマイクで声をかける立山会長。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

実はこの場所、今回初めて来ました。
立山会長の案内のおかげで、球磨川第二橋梁を間近に見ることができました。
さすが、地元の方です。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

お土産屋さんに寄った後は、最後の見学地、人吉機関区車庫へ。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」 クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」 クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

とてもフォトジェニックな場所なので、皆さん、かなりシャッターを切られていました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

この人吉機関区車庫、一部撤去が決まっているそうです。
今のこのままの雰囲気を見られるのは、今回が最後でしょうとのこと。
本当に貴重な機会となりました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

機関庫の横にある転車台。重たいSLを方向転換させるためのものです。
全国各地で姿を消しつつあり、今や貴重な存在となりました。
昔は何らかの不具合があった時、人力でこの転車台を動かしていたそうです。
雨が降って水が溜まった時なんかは、そりゃあもう最悪だったとか。

転車台の隣りのSL館には、蒸気機関車に関する様々なものが展示してあり、
立山会長が説明してくださいました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」 クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」 クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

…本当に色んなものが展示されていました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

展示室のお隣には、投炭練習を体験できる場所が。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

まずは立山会長にお手本を見せていただきます。
とても御歳80歳とは思えない、パワフルな身のこなしに圧倒されます。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

続いて参加者も挑戦!
「なかなか筋が良い」と褒められました。^^

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

立山会長が仰るには、蒸気機関車というものは「とても動物的なもの」だそうです。
蒸気機関車というのは、車内で石炭を燃やすことで、自分で燃料となる蒸気を作っている。
機関庫で停まっている時も石炭を燃やし、蒸気が循環し続けているところは、
動物が眠っている時にも血液が循環し、呼吸を続けているのと一緒。
そして、石炭の良し悪しや機関車の調子などで状態が変わり、個性がある。
そんなところが、生き物のように感じるところだそうです。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

一日かけて、見学地の場所ごとに、またバスの車内でも、素晴らしいお話を聞かせてくださった
立山会長、そして平川さん、本当にありがとうございました。
経験者だからこそ語れる生きた言葉に、深く感銘を受けました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

ドンドンドン♪
太鼓の音が鳴り響き、軽妙な音楽とともに、人形がユーモラスに踊り出します。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

最後に人吉駅前のからくり時計を見て、福岡への帰途につきました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

一日安全に運行してくださった福岡伊都バスの越路さん、ありがとうございました。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

そして参加者の皆さま、ご参加いただき本当にありがとうございました!

今回はクリエイティブツアーにしては珍しく、いや初めて(?)
余裕をもってスケジュールを進めることができました。
皆さまのご協力に感謝申し上げます。

台風の影響を心配しておりましたが、行程もすべてクリアでき、大雨に降られることもなく
無事にツアーを終えられたので、安心いたしました。
多くの方々にご協力をいただき、たくさんの幸運に恵まれたツアーだったなと思います。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

帰りの車内で皆さまから感想を頂きました。

「ツアーに参加するまでは特に電車に興味は無かったけれど、会長さんの説明を聞いていると興味がわいてきて、
感動する場面もありました。」

「自分では行けないような場所に連れていってもらえて、色々なものを見られて良かったし、
道中、皆さんとお話しできて、すごく楽しめました。」

「本物のチカラはすごいと思いました。一夜にして作り上げることはできない、歴史の重みを感じました。
運良く残ったと言われていましたが、残って良かったと思います。」

「地元の方の、観光客を大事にしよう、文化を伝えようという気持ちが伝わってきて、とても良い旅ができました。」

「行程にゆとりがあったため、ゆっくりと撮影ができて良かったです。」「フィルムを現像するのが楽しみ。」

「写真という同じ目的を持った人達と一緒に一日を過ごせて、今までにない刺激をもらえました。」

「一人で参加して不安だったけど、ほとんどの方が一人で来られていたので安心しました。」

「写真を撮るという目的で参加したわけではなかったので、皆さんから浮いてしまうのではと心配していましたが、
ウロウロしながら十分ゆっくり見ることができたので良かったです。」

「楽しくて一日があっという間でした。名残惜しいですが、またツアーに参加したいと思います。」…等々。

参加者の皆さまに楽しんでいただけたようで、こちらもとても嬉しいです。

クリエイティブツアー「肥薩レトログラフィ」

最後に石川の感想です。

クリエイティブツアーでは、現地の方に案内してもらうことも多々あるのですが、
やはり、そこに生まれ育った人に話を聞くというのは素晴らしいことだなぁと思います。

今回、立山会長に詳しい説明をしていただきました。
当時のことをリアルに体験した本人から直接聞く言葉は重く、貴重で、そして素敵でした。
立山会長と同じように、自分よりも長い時間を生きて様々な経験を持った人が、きっと身近なところにもいるでしょう。
そんな人たちに、当時のことを何でも良いから聞いてみたいという気持ちもわいてきました。

今年7月に県美でクリエイティブツアー写真展を行い、
ツアーで行った場所だったり、自分が素敵だと思う景色の写真を一般公募し展示したのですが、
写真を見にきてくださった多くの方々が「こんな場所が九州にあるのね」と感動してくれて、
九州の魅力を再発見してもらうことができました。
また来年も写真展を開催したいと思っていますので、ぜひ沢山の方に参加していただき、
地元の素晴らしい文化や歴史や景観を伝えていければと思います。

立山会長が「自分が元気な限り、肥薩線の魅力を伝えていきたい」と仰っていましたが
僕たちも、写真を通して地域の魅力を伝えていけたら良いなぁと思っています。

そしてまた、写真を撮るという同じ楽しみをもった人たちと巡る、このツアーの良さを改めて実感しました。
また皆で楽しく一日を過ごすことができたら嬉しく思います。