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2021.3.31

永峰製磁 |長崎隆紘さん

波佐見ポートレイト|永峰製磁

白色から一変!カラフルな世界を開いた4代目の挑戦。

波佐見焼の窯元「永峰製磁」のギャラリーが昨年5月、工房の横にオープンしました。

「eiho-porcelain」と掲げられたスタイリッシュな店内には、色とりどりのオシャレな器が並んでいます。
すっきりとシンプルで使いやすそうな形。
何より目を惹くのは、繊細なニュアンスの、淡く柔らかな色彩。
コンセプトは「おうちでカフェの気分を楽しめるような食器」です。

デザインを手がけているのは「永峰製磁」の4代目、長崎隆紘(たかひろ)さん。

昔に比べ、色々な食材が簡単に手に入るようになり、お皿に盛られる料理の色合いもさまざまになりました。
だからこそ、料理が一番映える色を研究し、器はワントーン落とすなどの工夫をして、独自のカラー展開をしているそうです。

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しかし、3代目までは、器の色といえば白のみ。
1936年に隆紘さんの曽祖父が創業して以来、薄手の白磁に染付(そめつけ)されたものをメインに生産していたのです。

*「染付」とは、白地に藍青色で模様が描かれた焼き物。呉須(ごす)という顔料で絵付される。

「永峰」という名は、永尾郷という地名から「永」の字を取り、山の頂を目指し続けるという思いを込めて「峰」と付けたという由来が。
以前、先代の器に触れたことがありますが、その透き通るような生地の薄さは確かに、高みに向かって磨き上げられた職人技だからこそ成し得たものなんだろうと、素人目にも分かるものでした。

この「白い器」という受け継がれてきた伝統に、カラフルな「色」という革新をもたらした隆紘さん。
どういう道のりを経て、そのような境地に至ったのでしょうか。

高校を卒業後、上京して飲食店などで働き、二十歳前に波佐見町に帰郷するも、家業を継ぐことなく、ミカン農家さんなど、さまざまな仕事を経験したのだそう。
ご両親からも、継ぐようにとは言われませんでした。

波佐見ポートレイト|永峰製磁

「当時は厳しい時代だったと思うんです。
一般流通の競争に負けてしまうと、なかなか生き残ることが難しい。
まだインターネットも気軽にできたわけじゃないし、打開策が見つからないというか…。
だから、親も勧めにくかったのではないでしょうか。
今の波佐見の状況を見ても、そうかもしれません。
自分も親になってみて思うのですが、もしも子どもから窯元を継ぐと言われても、ちょっと戸惑ってしまうと思います。
好きじゃないと続かないですし、ある程度、覚悟を持ってやらないと。
浮き沈みが激しい業界ですから。」

しかし、2人いる兄も就職し、誰も継ぐ人がいないという状況になり、改めて家業のもつ意義を考えるように。

「焼き物の歴史や著名な作品を美術館などで調べてみると、千年も昔につくられた器が、いまだにその価値を失うことなく、美しいと評価されていました。
こんな仕事、なかなか他に無いのではないか。
そもそも、この家に生まれなければ、窯元になろうと志しても難しかったのでは?
そう考えて、食べていけるかどうかは分かりませんでしたが、とりあえずやってみようと思いました。」

波佐見ポートレイト|永峰製磁 波佐見ポートレイト|永峰製磁

「いざやってみると、ちょうどSNSが出てきた頃で。
インスタグラムの中では、料理を頑張ったり、部屋を整えたりといった、普段の『暮らし』そのものが評価されていました。
一般の人がインスタグラマーとして収入を得られるような場所ができたことで、日々の生活で楽しんで使ってもらえるように発信していけば、すごくチャンスがあるんじゃないかと。
それで、SNSでの情報発信とWEB販売に力を入れて、軌道に乗り始めたところで、そろそろ代を変わろうかということで、4年前の25歳の時に代表取締役に就任した感じです。」

現在、WEB関係は全て担当している他、企画デザインから、空いた時間には製造も行うなど、仕事はほぼ業務全般。

「知ろうと思えば、今は情報がすごく簡単に手に入るので、時代の変化や、建築のトレンドなどをよく見るようにしています。
例えば、流行りのマンションのキッチン収納はどうなっているか?など。
食器をたくさん買うタイミングって、新居を構えた時かなと思うので、お皿をどういうところに収納して使うのか、LIXILのショールームなどに行って研究しています(笑)。

意外と収納って限られているので、現代の暮らしに合うよう、なるべくシンプルで、使い勝手が良いものを提供したいんです。
食器棚の面積もすごく狭くなっていて、そのスペースに置ける範囲で選ばれることを考えると、一つの器で2〜3通り使える方が重宝しますよね。
パン皿としても、おかずの取り皿としても使えるし、これはスープでもサラダでも使えるよねっていう、ちょうど良いサイズ感を目指しています。

そして、力を入れて取り組んでいるのが、自分のところの『オリジナルの色』をつくること。
釉薬屋さんの既製品もありますが、利用している窯元さんが割と多いので、そのまま使うと量産メーカーに負けてしまいかねません。
なので、料理の色を邪魔しないことを前提に、女性ファッションの流行色といったトレンドを読みながら、今の若い人たちが好む色と、食材に合う色とをすり合わせて、独自のカラーを生み出しています。」

波佐見ポートレイト|永峰製磁

このように新しい方向へ進むにあたって、先代であるお父様と意見のぶつかり合いなどは無かったのでしょうか。

「もうバチバチでした(笑)。結果を出すまで、すごい喧嘩をしましたよ。特に色を使うことについては反対されました。
祖父と一緒に仕事をしてきた父には『白くて薄くて染付してある器こそが、うちの会社の商品だ』という誇りがある。
もちろん、これまでに培われてきた技や伝統を継承していくことも大事だと思います。
ですが、時代も変わり、ターゲットとしている客層も異なっているので…。
結局そこは折り合えず、自分のやりたいようにやって、結果を見てもらうことにしました(笑)。今は認めてくれていると思いますよ。」

この色とりどりのカラーになったことは、永峰の歴史にとって、すごく大きな転換点だったんですね!

波佐見ポートレイト|永峰製磁

ご両親と、奥様の望(のぞみ)さんと一緒に。

──お仕事のやりがいを教えてください。

「これまでは、いかに外の世界を充実させていくかに注力していました。
ですが、コロナによって、さらに強く思うようになったのが、人が生きていく上で基盤となる『日常』の大切さ。
例えば、日に三度とる食事であるとか、そうしたものの尊さに改めて気付きました。
だからこそ、人々の毎日の暮らしを豊かにするお手伝いができる、この仕事にやりがいを感じますし、良いものをつくることで、誰かに幸せを感じてもらえたら嬉しいなと思います。」

──今後のビジョンや目標は何ですか?

「昔はビジョンを持とうと考えていましたが、今は時代の変化が激しいので、こうだと決めてしまわずに、その時勢に合わせてグラグラと価値観を揺らしていこうと思っています。
コロナ前は、こうなるだろうと予測して、行け行けゴーゴーで前向きに突っ走る感じでした。
でも、もはや誰も答えが分からないような社会になってしまったから、逆にビジョンを持たない方が柔軟に対応していけるかもって。
あ、ちょっとは考えていますけどね(笑)。」

学ぼうと思えば、いくらでも本やネットから知識を得られるからと、自社のWEB関係についても図書館で独学したという勉強家の隆紘さん。
また、あえて他業種の人に意見を求めることもあるそうです。
軸足を固定してしまわず、探究心をもって、変化を恐れず臨機応変に進んでいく姿に、たくさんの可能性を感じました。

──私の波佐見のイチオシ!

「西の原のすぐ近くにある、桶谷(おけや)鮮魚店の刺身が美味しいです。
波佐見町民に寄り添った魚屋さんで、月曜と木曜は「揚げ物の日」。ゲソ揚げやカニの揚げ物があるんですよ。」

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*2021年1月インタビュー
*撮影の時のみマスクを取っていただきました。

永峰製磁株式会社

波佐見町永尾郷306-2
TEL/0956-85-2056
【CONCEPT GALLERY】
営業時間/10:00〜12:00 13:00〜16:00
定休日/土日祝
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