Issue 2023.12

Issue 2023.12

デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2014.9.29

アクセサリー作家=風亜さん

心を浮き立たせる、ふわり軽やかな素材感のアクセサリー。

風亜さんの小さなアトリエは、地下鉄の駅のほど近く、住宅街の一角にある。もともとは風亜さんもよく通っていた「みずや」という作家ものの雑貨などを扱うお店だった場所だ。そこに通ううち、趣味で作っていた作品を置いてもらえることになった。オーナーである落水さんと一緒に決めた「風亜」という作家名での活動は、そこからスタートした。
「落水さんはものづくりについて何も知らなかった私に、一から根気強く教えてくれたんです。かなり鍛えられましたね」と風亜さんは当時のことを笑顔で振り返る。作品を持って行っては指摘を受け、そのたびに作り直したこともあったという。それまで好きなように作ってきたものに何度もダメ出しを受けたら、途中で諦めてしまっても不思議ではない。けれど風亜さんは作り続けた。
「落ちこぼれだったんです、ずっと。何をしても。だから今、作品を作って誰かに喜んでもらえることがすごく嬉しいし、私にはこれしかないと思えるんです。この道では負けたくないなって」。

風亜さんのアクセサリーの特徴は、「透明感」。淡い色、ふわりとした質感を大切にしている。
「私の作品は“人ありき”なんです。だから、作っていて楽しい」という言葉の通り、淡水パールや天然石などの自然素材と、金、銀、白など肌なじみの良い色の糸との組み合わせで、主役である「人」を引き立ててくれる。「金属アレルギーの人でも安心してつけられるように」と、ネックレスに金色の糸を使用することで金属を使うことなくゴールドに見立て、留め具部分にも糸やパールを用いていたり。こんなところにも「人ありき」と語る風亜さんのこだわりが見える。

作家として活動を始めてから3年ほど経った2013年10月に、みずやの場所をそのまま受け継ぎ、自身のアトリエ「風亜」をオープンさせた。アトリエを持つことを心配する人も多い中、「夫にも反対されるだろうなあと思いながら相談したら、あっさりと賛成してくれた」ことが、とても心強かったそう。「アトリエを開いて、作品を作ることにより責任を持てるようになりました」。そのこともまた、作家としての大きな成長だった。

「風亜」を象徴するような、白いビーズがふんだんに使われた「露草の冠」シリーズ。この作品は、細さ1mmにも満たない糸を使って編み上げられている。編み方は鎖編みに細編み、長編みなどいたって単純だが、シンプルだからこそ風亜さんの個性が表れるのかもしれない。編み方は単純ながらも「ビーズを通すのが、とにかく一苦労」なのだそう。針も通らないほどの小さなビーズの穴に、糸を通し、針で刺し、針を外してまたビーズに糸を通す、その細やかな動作の繰り返しは想像するだに大変で、とてつもない集中力と根気のいる作業だ。

作品を作っていて、いちばん苦しいことは何かと尋ねてみた。すると「“まだまだだ”と感じることが、とても苦しい」という答えが返ってきた。その後には「苦しいけれど、苦しんだ先には必ず何かが生まれる喜びがある。だから、苦しくても頑張れるんです」という言葉が続く。

以前は、他の作家さんの作品を見ると、悔しくなったり哀しくなったり、自分の軸がぶれてしまう気がして見ないようにしていた、という風亜さん。けれども最近、心境の変化があった。「到底かなわない」と思えるほど素晴らしい作品を見ると、打ち砕かれる。それはこれまでと変わらないのだけれど、今はなぜか「嬉しくなる」という。
「これで完璧だと自分では思っても、まだまだ上がある。伸びしろがあるんだと思えるんです。自分の中の軸がしっかりしてきたからかもしれません」。

行き詰まった時は、行きつけの喫茶店で珈琲を飲みながら頼りになる人に話を聞いてもらう。落水さんに相談に乗ってもらうこともしばしば。「応援してくれる人だけでなく、厳しいことを言ってくれる友達がいてくれるのは本当にありがたいなって。お客さんを含め、周りの人に支えてもらっています」。
そんな沢山の支えが、「風亜」の軸を、よりたしかなものにしている。




Profile

風亜(ふうあ)
2010年より「風亜」として作家活動を開始。シルク糸やミシン糸などで丁寧に編まれたアクセサリーは、繊細さと透明感が特徴。2013年に自身のアトリエ「風亜」をオープンし、作品の展示・販売を行ないながら日々あたらしい作品を生み出している。
住/福岡市城南区別府5-10-13-1F 問/092-407-7200 http://fu-a.info/

写真=永溝直子 文=木下綾