世代を越えて受け継がれていくもの、棕櫚箒の物語。
作業場の天井を覆うのは、ずらりと吊るされた箒たち。かつて浮羽の農家では副業として棕櫚箒が盛んに作られていたが、今では「まごころ工房 棕櫚の郷」の木下さん親子が手掛けるもののみだという。「棕櫚箒の樹皮に含まれる天然の油分は、掃くだけで乾拭き、ワックスがけの効果もあるんです。フローリングや漆喰の壁にも使えますよ」。そう語るのは、棕櫚箒を作る父を見て育った、息子の宏一さん。清掃具全般を扱う会社の二代目である父、且益さんが「より良いものを」と作り始めたのをきっかけに、今では親子二人三脚で営んでいる。作業にかかる時間はおよそ1ヶ月。基本的な加工のほか、使い始めに穂先から出る粉を極力減らすため、洗って干す過程を二度繰り返す。「最低でも20年は保証します。手入れ次第では半世紀使えますよ」。という言葉は、妥協を許さずこだわり抜いたからこそ。「ただ消費するのではなく、長く使われる“生活の道具”の大切さを伝えたいんです」。そういって出してくれたファイルには、棕櫚箒を使う人たちから来たたくさんの手紙が。「この素晴らしさを、しっかり引き継いでいきたいですね」。世代を繋げていく棕櫚箒。父親が培った技術と想いは、今、息子へと確かに受け継がれている。
銅線をきっちり巻きつける手法がフォルムの美しさと強さの秘訣。
慣れた手つきで手際よく作業を進める且益さん
天井にずらりとぶら下がる長柄の箒。「お嫁に行く日を待っている」という。
棕櫚の皮は仕入れている。写真は原料となる棕櫚の木。
お客様から届けられた手紙。
3種類だった棕櫚箒は今や20種類に。ラベルはすべて母貞子さんの手書き。
Profile
- まごころ工房 棕櫚の郷(まごころこうぼう しゅろのさと)
- 住/うきは市浮羽町浮羽301番地 問/0943-77-2212 http://www.houkiya.jp
写真=柳田奈穂 文=村山実和子