軽やかな歩みをもたらすのは、人と暮らしに優しい靴作り。
「5ミリ刻みの細かいサイズで作られているのに、どうして足に合わないことがあるんだろう」。靴職人への道を歩みはじめたきっかけは、高校生の時に抱いた靴への疑問。東京の専門学校で靴作りを学んだのち、地元である宗像に工房を構えた副田さんは、注文靴の制作、修理、靴作り教室を全て一人で行っている。「靴ひもって普通しゃがんで結びますよね。だから普段立った状態で靴を履く人に、しっかりと靴ひもを締めて履く靴を提供しても、その人の生活にとって良い靴だとは言えないと思うんです」。目盛りでは測ることの出来ない日々の暮らし方や歩き方に、丁寧に向き合う副田さん。何気ない会話に隠れた靴作りのヒントを見逃さないよう、お客さんとの信頼関係を何より大切にしているという。「例えば、骨が成長過程の子どもがヒールの高い靴を履くと、その子の足にはとても大きな負担がかかってしまうんです。年齢や歩く場所などによって異なる、靴と足との正しい在り方を伝えていくことが、僕の役目だと思っています」。靴はファッションのひとつであると同時に、私たちの足を守ってくれるもの。副田さんの靴は、私たちの足元に彩りだけでなく、足と暮らしのサイズにフィットする快適な履き心地ももたらしてくれる。
左は革をカットする包丁、中心は釘打ちや革を引っ張る際に使用するワニ。そして右は採寸のあとサイズを確認するために作る仮の靴。
和気あいあいとした雰囲気で進められる教室。副田さんは技術だけではなく「靴って作れるものなんだ」という喜びと視野の広がりも伝えていきたいという。
初期のジブリ作品のような1930年代ごろの靴をモチーフとしてデザインすることが多いのだそう。
足の形を型取るラストという道具、そして靴底を削る機械。お年寄りの靴底は軽め、若い人の靴底は少し重めにするのだそう。
Profile
- 副田健太郎(そえだけんたろう)
- 東京の専門学校で靴作りを学んだのちに地元の宗像へ戻り、友人たちの靴を作りながら技術を高める。当時23歳であった2008年に「まる歩靴工房」を立ち上げ、現在は注文靴の制作や修理、既成靴の修理、靴作り教室を行う。
住/宗像市徳重1-11-6 問/0940-32-3861
写真=松本恭尚 文=永溝直子