変わらない伝統の間に吹き抜ける新しい風。
九州最大の伝統工芸地帯、八女。特に仏壇、仏具などの工芸品が多いことでよく知られている。「仏壇は一人の職人が造り上げるものではありません。完成までに彫刻や蒔絵など六つの工程の職人が携わります」。そう語ってくれたのは伝統的工芸品“八女福島仏壇”を造り続けてきた、近松辰雄商店の四代目。近松辰雄商店では、図面起こしや細工の内容、仕上げなど、全体の仕様を決定している。雑貨や家具とは違い仏壇の造りには意味があり、形を大きく変えることはできないが、その決められた構造の中で新しいものを模索している。「今まで螺鈿細工や久留米の籃胎漆器など、他の地域の伝統工芸を取り入れてきました。今後も久留米絣や博多織など、いろんな地域の伝統工芸を取り入れたいですね」。伝統を守るだけでなく、新しいアイデアをプラスすることで広がる可能性。更に仏壇造りの技術を他に活かすことも考えている。「漆や金具、彫刻の技術を使った仏壇以外の二次製品を作っていこうと思っています」。伝統技術の新しい方向を引き出すことは、技術を残すことや地域の活性化につながるという。自由な発想が生む新しい風は、受け継がれていく伝統がよりよい形で守られていくことを予感させてくれた。
引き出し部分にほどこされた久留米の籃胎漆器。伝統的な仏壇にはなかった、新しいアイデアとして評価されている。
仏壇になる白木に何度も漆を塗り重ねる。ヘラで漆を伸ばした後、柿渋を塗った綿で拭き取ってムラを取っていく。温度と湿度で使用する漆を見極めないといけないため、簡単に見えて難しい。
重要な金箔貼りの工程。漆が空気を吸い込んで金箔が密着する。
重なった金箔は筆でそっとなぜるとぱらぱらと落ちていく。
凹凸のある立体的な部分まできれいに金箔を貼っていく。
Profile
- 近松 信孝(ちかまつのぶたか)
- 国指定の伝統的工芸品「八女福島仏壇」を扱う近松辰雄商店の四代目。古くからの伝統を守りながらも、新しさを取り入れる挑戦を続けている。
近松辰雄商店 住/八女市本町2-292 問/0943-22-3403
写真=石川博己 文=原口昌子