6月5日土曜日、「唐津クリエイティブツア−」が行なわれました!
今回で5回目の開催となるクリエイティブツアーですが、クリエイティブツアーの概念となる、
“クリエイティブツーリズム”のご説明をさせていただきたいと思います。
大都市じゃなくても、センセーショナルじゃなくても、
行きたい場所がある。見たいものがある。
どんな小さな町にも物語はあって、人々が暮らし、長い年月かけて築かれた文化がある。
その町にとっては日常的すぎて忘れられていた、かけがえのないものを、クリエイティブな方法で再構築する。
その場所に立ち、そこにしかない空気を吸って。
枠にはめられていないその場所にクリエイティビティを見つけ、
写真を撮ること、ものを作ること、その土地の人と対話すること、その土地に対峙すること。
五感で感じられる方法でその土地を知ること。
決して、エゴイズムに陥ることなく、土地に敬意をはらいながら。
私たちが今までおこなってきたツアーを、より土地の深部と関われるものにするために、
そして関わる人々が皆なにかしら、得られるツアーにするために。
このように、思い改め挑んだ今回のツアーは、
アテンダントにROAST(唐津ロースト)編集室の佐藤直之さん、吉岡聖貴さん、
そしてギャラリー一番館の坂本直樹さんをお迎えしました。
土地を知る人が見せてくれる、本当の町の魅力。
私たちが過ごした梅雨の唐津の一日を、ご紹介いたします。
唐津クリエイティブツアーの1日
例年よりも早い梅雨入りというニュースに肩を落としつつ迎えた当日。
しかし、この雨が唐津の新たな一面を見せてくれました。
参加者おひとりおひとりに、特製“唐ワン君”ネームカードをお渡しし、出発です!
バスはおなじみ、福岡伊都バス。運転手は越路さん!もはやクリエイティブツアーには欠かせない存在なのです。
今回は参加者皆さまにネームカードをぶら下げていただき、車内では自己紹介も行なっていただきました。
せっかく一日いっしょに過ごすのだから、名前で呼び合いたいですよね。
さて、まず一行が向かったのは唐津城。
今日一日を過ごす町を、見渡していただこう、という目論みだったのですが…
小雨がしとしとと、町を濡らしていました。でも、雨の唐津はなんとも風情があるのです!
写真になった際にはこの上なく叙情的なことでしょう。と、雨も今回のツアーの見所にしてしまいました。
こんな可愛らしい光景も、雨ならでは。そして、石垣の道をゆらりゆらりと歩きます。
緑がとてもきれい。
かつては武家屋敷が立ち並んでいたというこの道。
耳をすませば波の音を聞こえてくる、少し湿ったような、ひんやりとした空気が漂う静かな道。
この閑静を空間を散歩道として楽しめる唐津の人々は、なんて贅沢なのでしょう。
すると、ひときわ大きなお屋敷が見えてきました。
佐賀県最大の炭鉱・杵島炭鉱の主、高取伊好の邸宅です。
中は撮影禁止のため、お見せできないのですが…とにかく見所が多い!
能舞台、京都四条派、水野香圃による緻密な杉戸絵、茶室。
和風邸宅の中に西洋の様式が取り入れられた、和洋渾然一体の空間。
非常に文化的で、先見の明を持つ人間ならではの建築です。
特筆すべきは杉戸絵。見事な杉戸絵が何枚も何枚も見られ、まるで美術館にいるようでした。
ぜひ、ご自身の目でその素晴らしさを味わってくださいね。
さて、ここで本日のアテンダントの一人、唐津ロースト編集室の吉岡さんが同乗です。
中心部へと移動し、昼食の時間。
アテンダントと昼食をとる人、お目当ての定食屋さんへと向かう人などさまざま。
ちなみにエフ・ディは…
煙さえも美味しそうです。
そそくさと蓋をあけると…
なんて美味しそう!!明治初期創業の老舗鰻専門店「竹屋」の鰻丼です。
あこがれのうな丼に、登録有形文化財に指定された建築美を、堪能し忘れてしまいました…
しかし、大正時代の趣きが残るクラシカルな店内で頂く鰻は、まさに絶品です。
その後は3班に分かれての町歩き。これは初の試みでした。
唐津ロースト編集室・佐藤さんの「食べ歩き編」
おなじく唐津ロースト編集室・吉岡さんの「建築編」
そして、ギャラリー一番館坂本さんの「唐津焼編」。
それぞれのチームに分かれていただき、ゆっくり、たっぷりと唐津の町を味わってもらいます。
これほど見所が凝縮している町はないのでは?!と感じます。
そして、地元を良く知るアテンダントの方がいるからこそ、
過ごすことのできる時間を感じていただけたのではないかなと思います。
スタッフ柳田は唐津焼に参加。
まずはギャラリー一番館にて、
坂本さんイチオシの作家・矢野直人さんの新作展を鑑賞。
こちらは「食べ歩き編」でも訪れたようなので、そちらの写真を…
黒いポロシャツの方が矢野さんです。
唐津の作家の中でも、特にその将来を期待されている矢野さん。
1976年生まれで、唐津焼をはじめたのは、なんと30歳からなのだそうです。
朝鮮唐津の花入、絵唐津の壷、皮鯨のぐい呑みなど、桃山時代の“古唐津”を彷彿とさせる作品群。
力みがなく躍動を感じさせる、やわらかくも力強い作風が魅力です。(参考文献:唐津 All of Karatsu)
お人柄も佇まいもとても素敵な方でした。
ギャラリー一番館の見所は、実は唐津焼だけではありません。
元カメラ屋さんということで、クラッシックカメラがたくさんありました。
これはほんの一部で、奥にはその倍ほどの珍しいカメラが所狭しと並んでおり、カメラ好きにはたまらない空間です。
そして、カナリア!癒されました。
次に向かったのは、唐津駅より南に位置する町田橋を渡って、お茶碗窯通りの小径を抜けた先。
中里太郎太郎右衛門邸内に眠るように存在する「お茶碗窯跡」。
この窯は、江戸時代から、唐津藩の御用窯として献上唐津が焼かれており、
廃藩後も中里一族によって、大正年間まで使われていました。
現在も窯の壁面や天井部など、ほぼ全体の姿を残しており、270年余りの時を留めています。
こちらはギャラリー。
うん百万円という壷やお皿にドキドキしたり、その中でも、頑張れば買えるお値段のものに物欲を刺激されたり。
こんな素敵なお皿があったら、お料理頑張れそうだなぁ、などなど想像が膨らみます。
登り窯も見学させていただきました。窯入れがあったようで、まだ熱気が残っています。
窓から射し込む控えめな光が美しい工房。
敷地内はどこを切り取っても絵になります。雨に濡れた緑がきれいですね。
アテンダントの坂本さん、ダンディです!
「唐津の魅力を伝えるのが趣味のようなもの」とおっしゃってくださいました。佇まいも、考えも、とっても紳士な方です。
一方、食べ歩きチームは…?!
佐藤さん率いる食べ歩きツアー。唐津の台所、産栄市場を巡り…
あの!有名な鯛焼きをつまみぐい。
こちらは唐津市魚屋町で80年の歴史を持つお菓子屋さん、篠原三松堂さんの金華糖の鯛菓子です。
一般的に、和菓子を作る時は木型を用いるそうですが、こちらではなんと瓦型を用いるそう。
唐津焼をはじめ、焼成技術の高い唐津ならではですね。
と、参加していないため、情報が少なく申し訳有りません!
一番人気の高かった建築編に至っては、写真もなく…どんな町歩きだったのかとっても気になります。
ただ一つ分かるのは、集合場所にやってきた建築編ご一行さまがほろ酔いだったということ!
お酒を試飲させてもらったのだとか。羨ましい!
そして、次に向かうのは中里隆氏、太亀氏親子の「隆太窯」。
種子島にわたり、焼締め陶・種子島焼をはじめた隆氏は、
唐津に戻った後も、鉄分の多い唐津の独自の土で、独自の焼締め陶「唐津南蛮」を焼きました。
近年はアメリカ、ドイツ、イタリア、チリなどの世界各地をまわり歩き、
その環境の素材を生かした世界各地の焼締め陶などを焼き続けています。
一方、息子である太亀氏は、日常使いの器をはじめ、茶碗や花入など、茶陶も手がけます。
「生活を豊かにするための器を作る」彼の作陶姿勢はその1点に絞られ、
「使って育ち、趣きが出るもの」「使っているうちに愛着がわいてくるもの」
「使いやすく、手に取りやすく、心地よいもの」に重点をおき、器作りをしているのだそうです。
敷地に足を踏み入れると、陶房を囲むように生い茂るみずみずしい緑が匂い立ちます。
それはとてもさりげなく、自然を生かすように手入れされている印象。
洗練されていて、だけどやはりさりげない、作家の美学がつまった空間。
こちらも、どこを切り取っても絵になります。
緑がきれいで、雨がすべてをきれいに濡らしていて、心が静かになる場所でした。
環境は、そこに住む人を反映しています。この空間から生み出される、ということに、また感動しました。
ここで、少しスケジュールよりも早く見学が終わってしまいました。
さて、どうしよう?と考えていると、なんと予定外のスペシャルな場所に行けることに!
老舗旅館、「洋々閣」を見学できることになったのです。
“唐津に洋々閣あり”と、国内外の文化人が心酔する名宿と言われています。
急なお願いにも関わらず、とても丁寧に館内を案内して下さいました。
風格ある、木造2階建の純和風旅館です。
明治・大正の面影に現代建築の美が調和されています。
館内には先ほど見学した、中里隆さんのギャラリーも併設。
ここも、とても素敵な空間でした。
こうして見ると、唐津は本当に優れた建築が多く、その美意識の高さに驚かされます。
これも、今まで知らなかった唐津の一面。やはりツアーはおもいろいなぁと、企画側でありながらしみじみと感じました。
そして、最後はなんといっても虹の松原!とはいえ雨が強くなってきたこともあり、散策は断念…でしたが、嬉しいことも。
唐津ローストでお馴染みの「麻生本家」へ行き…
佐藤さんの計らいのおかげで、“できたての松原おこし”を試食させていただきました!
噂通り、今までのおこしの印象をくつがえす味でした。
製造工程が見られるのですが、これがとてもおもしろくて。
工場見学に来たような気持ちで、食い入るように見てしまいました。
最後はみんなで唐津バーガーを食べて終了です。(食べるのに専念してしまい、写真を撮り忘れてしまいました!)
今回も濃厚なツアーになりました!
本格的にアテンダントをお迎えした初めてのツアー。
この一日だけでは足りないくらい、唐津にはまだまだ魅力がたくさんあります。
クリエイティブツーリズムというのは、町を編集していく作業なのかも…と、今回のツアーで感じました。
点在する町の魅力を結んでいき、新たな一面を作り出す。
唐津でもまだまだ編集したいものがあるし、それ以外の、さまざまな町を編集したい。
そんなことを考えていると、とてもわくわくするのです。
今回ツアーに参加してくださった皆さま、唐津ロースト編集室の佐藤さん、吉岡さん。ギャラリー一番館の坂本さん。
福岡伊都バスの越路さん。冊子制作にご協力いただいた皆さま!
本当にありがとうございました。
次回開催は7月7日。建築家イノウエサトルさんが見たい風景、そして、イノウエサトルさんが設計した建築を巡る旅です。
どうぞお楽しみに!