2日目の始まりは、雲海見学から。
早朝6:30。希望者のみとしておりましたが、全員揃って出発です。
観光協会と村役場の方々の運転で向かった先は、扇山(標高1,661m)の登山口の駐車場です。
登山口といっても、すでに標高は約1,300mもあります。
昨夜、星空鑑賞をしたのと同じ場所だったのですが、陽の光のもとで見てビックリ。
こんな絶景が広がっていたなんて…。
しかも、歩いて山を登ってきたわけでもなく、車で来て見られるってことにも、ちょっと驚き。
青き山々がいくつも連なり、遠くに日向椎葉湖が見えています。
キーンと冷えた空気に震えながらも、思わず見蕩れてしまうほどの美しい光景。
残念ながら気象条件等が揃わず、雲海は見られなかったのですが、
雲海が発生した時は、このような感じなんですよと写真で教えてくださいました。
ただただ素晴らしい風景に酔いしれていると、
観光協会と村役場の方々が、なにやら車からテーブルと椅子を下ろしてきて…なんと即席カフェの完成。
熱いコーヒーを振る舞ってくださいました。冷えきった体に、なんとも嬉しい心遣い。
とても贅沢な時間を堪能いたしました。
さぁ、宿に戻って朝食です。
いや~、またもご馳走がずらり!!
朝から美味しいご飯に舌鼓を打ちます。
実は昨日の真夜中、この部屋を通りがかった時、女将さん達がもう朝食の準備をされているのを見かけました。
夕食の準備に後片付け、そして朝食の用意と、とても大変だったと思います。
心尽くしのおもてなし、本当にありがとうございました。
優しい女将さんがいて、ご飯は美味しくて、暖かな薪ストーブがあって…。
森の民宿「龍神館」はとても居心地の良い、本当に素敵なお宿でした。
名残惜しいのですが、そろそろ出発です。
「花咲く季節もまた美しいのよ」と仰っていた女将さん。ぜひまた、別の季節にも訪れたいと思います。
大変お世話になりました!
ここからは、「椎葉村観光ガイド協会副会長」の高島清行さんが案内してくださいます。
まずは、上椎葉ダム(日向椎葉湖)が見渡せる高台の女神像公園へ。
美しい弧を描く上椎葉ダムは、日本で最初の100m級の大規模なアーチ式ダム。
戦後復興のため、北九州工業地帯への電力供給が急務となり、
数々の難工事の末、5年余の歳月をかけ昭和30年に完成。
その後の日本の土木技術に多大な影響を与えたダムなのだそうです。
建設のため延べ500万人もの労力を動員したといいますから、
今のこの静けさからは想像もできないような活気が山あいに満ちていたのでしょうね。
村の人口も、昭和30年代は10,000人を超えていたそうです。
ダムによってできた人工湖は、小説家・吉川英治氏によって「日向椎葉湖」と命名されました。
日向椎葉湖はダム湖百選にも選ばれ、ヤマメなどの釣りの名所でもあります。
女神像公園には、歴史的大事業であったダム建設の際に殉職された方々を弔う慰霊碑が建立されています。
3体の女神の姿はそれぞれ、仏教の慈悲・キリスト教の愛・水を司る神を表しているそうです。
上椎葉ダムのそばには椎葉中学校が見えます。
椎葉村全域を学区としている、村で唯一の中学校。
遠い地区の子どもは家から通えないため、寄宿舎が設置されていて、寮生活を送るそうです。
小学生も、この山道を何キロも歩いて通学している子もいるのだとか…。
街とは違う、山の暮らしをまた一つ知りました。
バスに乗り込み、次の目的地へと向かいます。
高島さんが車中で、椎葉の四季折々の美しい風景を写真で見せてくださいました。
一面に咲いた真っ白な蕎麦の花、ヤマシャクヤク、シャクナゲに紅葉…。いつか、実際にこの目で見てみたいです。
石段を登った先にあるのは、国の重要文化財である「那須家住宅」。
特徴は何と言っても、横に長いその形。奥行き8.64m、長さは25.09mもあります。
前面には、何人もが腰かけられる、長~い縁側。
切り立った山々に囲まれ、平地が少ない椎葉村ならではの工夫が見られます。
山の斜面で、奥行が狭い敷地に建てなければならないため、部屋を横一列に並べた、椎葉独特の形式です。
なかでも那須家住宅は規模が大きく、代表的なもの。
現在のこの建物は、築300年ともいわれています。
間取りは「こざ(仏間)」「でい(客間)」「つぼね(寝室)」「うちね(茶の間)」と4部屋が一列に並び、
さらにその隣りに「どじ」と呼ばれる土間があります。
「こざ」は神仏を祭る神聖な場所で、女性の立ち入りは禁じられていたのだそう。
「どじ(土間)」には昔ながらの大きなかまど。
各部屋は板戸で仕切られ、冠婚葬祭などの際は戸を外して広く使うこともできるのだとか。
シンプルな間取りに垣間見える、先人の知恵。
那須家住宅は、別名「鶴富屋敷」とも呼ばれています。
それはここが、源氏の武将・那須大八郎と平家方の鶴富姫との悲恋の舞台といわれているからです。
平家の落人伝説の続きを…。
那須大八郎が、椎葉の地で平家の人々と暮らすようになってからのお話。
大八郎は、平清盛の末裔である鶴富姫と出会い、2人は恋に落ちます。
源氏と平家は敵同士。
ですが、大八郎は愛する鶴富姫と生涯をともにすることを決めました。
2人が暮らした住まいが、この鶴富屋敷だといわれています。
幸せな日々は、しかし長くは続きませんでした。
ある日、大八郎に鎌倉から帰還の命が下されます。
鶴富姫は身ごもっていましたが、仇敵の姫を連れていくわけにもいきません。
「生まれてくる子が男の子なら私の故郷へ、女の子ならこの地で育てるがよい」と言い残し、
大八郎は泣く泣くこの地を後にしました。
生まれてきたのは、かわいい女の子。
鶴富姫はその子を大切に育て、のちに婿を迎え、愛する大八郎の姓「那須」を名乗らせたといいます。
伝説とはいえ、椎葉村では現在、半分以上の方の苗字が「椎葉」さんと「那須」さんなのだそう。
それを聞いてビックリしました。
同じ苗字が多いので、役場でも、下の名前で呼び合っているのだとか。
続いて、「平家さくらの森」の遊歩道を通って「椎葉民俗芸能博物館」へと向かいます。
平家さくらの森では、3種類の蛍が見られるそうです。
平家蛍・源氏蛍・姫蛍。「まさに椎葉村らしいですね」と高島さん。
博物館では、椎葉村に脈々と受け継がれてきた儀礼や慣習、民俗文化などが紹介されています。
神楽、焼畑、狩猟、様々な季節行事…。
椎葉に生きる人々が、自然と共生しながら、どのように暮らしてきたのかを知ることができます。
地上4階、地下1階の広い館内には、多種多様な民俗芸能の用具、祭礼具に民具など、興味をひかれるものがいっぱい!
さすが「民俗学発祥の地」といわれる椎葉村。
じっくりと見ていたら、ここだけでも一日が過ごせそうなほどです。
高島さんが自作の指し棒を片手に、丁寧に解説してくださいました。
とりわけ私が驚いたのは、精霊棚(しょうろうだな)。
お盆にご先祖様へお供えをするのは勿論のこと、
無縁仏のためにも、お供え物を置くための「精霊棚」を庭にしつらえるのだそうです。
よもや無縁仏にまで、おもてなしとは…。恐れ入ります。
博物館の4階から外に出ると、そこには立派な土俵が!
でも、なぜ土俵?
椎葉村で、主に教員のための私塾を開いている綾部先生という方が、
貴乃花部屋の女将である花田景子さんの、小学校時代の恩師だったそう。
その縁で、貴乃花親方の「国技である相撲文化の素晴らしさを広めるため、全国に土俵を作りたい」という想いに応え、
この土俵が誕生したのだとか。
色々なエピソードを知るたびに、
椎葉村の方々の、相手の想いをすくいとり真摯に受け止める力、深い思いやり、人と人との関わりを大事にする心、
その高いホスピタリティ精神に感銘を受けます。
土俵の脇を通り抜け、石段を登ると目に飛び込んでくる、鮮やかな朱色。
粛然とした空気をまとう、椎葉厳島神社です。
しかし、安芸の宮島に鎮座する「厳島神社」といえば、海の神様のはず。
それがどうしてこのような山の中に…。
言い伝えでは、 椎葉の地に暮らすようになった那須大八郎が
平家一門のために、平家繁栄の象徴である厳島神社を分祀し、建立したのだとか。
この日、残念ながら宮司さんにはお会いできなかったのですが、
宮司さんから皆さんに預かっていますと、全員にお守りを授けていただきました!
嗚呼、ここでもまた、おもてなしが。(感涙)
那須大八郎と鶴富姫が、敵味方を超えて結ばれた由縁から生まれたという「源平おまもり」。
赤と白の2つのお守りは、平家(赤)と源氏(白)を表しています。
良縁・夫婦円満・子宝安産・健康などの御神徳があるそうですよ。
私はこのツアーで、参加者の皆さんや椎葉村の方々との、
たくさんの素晴らしいご縁がつながりました。すでにご利益があったようです。^^
高島さんのガイドはここまで。
本当はもっと沢山お話を伺いたかったのですが、スケジュールの都合上、仕方ありません。
高島さん、興味深いお話の数々、どうもありがとうございました!
昼食時間まで、上椎葉地区を自由に散策しましょう。
手作り感あふれる「集落内マップ」までご用意していただき、それでは楽しく商店街巡りなど…。
と思いきや、なんだか切羽詰まった顔で、慌てて写真を撮り出した方もいらっしゃいます。
実は午後からワークショップ「視点採集」を行い、ツアー中に撮影した写真を発表していただくのですが、
1日目から、あまりにも色んなことが目白押しで、視点採集のことなどすっかり〝そっちのけ〟になっていたことを
どうやら急に思い出されたご様子。^^;
上椎葉の目抜き通り「つるとみ通り」には、初日に昼食をもてなしてくださった「よこい処しいばや」さんがあります。
ここでもまた、思わず感動するほどのおもてなしが。
こ、これは…私が行きのバスの中で「絶対に食べよう」と思っていた豆乳プリン!
なんと全員に、サービスで振る舞ってくださったのです。
これが、ものすご~く美味しくて。
豆乳プリンの中には季節のフルーツを入れるそうなのですが、今回入っていたものは…え?干し柿!?
意外だったけど、すごく合う!
おそらく、あまりの美味しさに、ふと誰かが呟いたのでしょう。
「この豆乳プリン、お土産に買いたい」と。
さすがは「おもてなしの椎葉村」の方々。聞き逃してはいませんでした。
すでに20人が食べ尽くしてしまったのに、帰る時間までに準備してくださるとのこと。
結局25個、お持ち帰り用を新たに作ってもらったのでした。
豆乳プリンだけでも感激だったのに、さらに!
昨日、皆で煮詰めたメープルシロップまで。
体験の時は完成したものを味わってもらうことができなかったからと、
わざわざホットケーキを焼いて一緒に出してくださったのです。
引きも切らず続くおもてなしに、感謝することしきり…。本当にありがとうございました!
なんだか食べてばかりのようですが、鶴富屋敷に戻って昼食を頂きます。
竹のお盆に盛られた鶴富郷膳。
この旅で、すっかりおなじみとなった菜豆腐に、お煮しめ、天ぷら…。
旬の山菜など、お野菜を中心としたヘルシーなお料理が並びます。
椎葉の美味しいお蕎麦も、これで食べ納め。
女将の那須弘子さんが一つひとつお料理の説明をしてくださいました。
綺麗な赤紫色に染まったお豆腐は、保存のために梅酢に漬けたものだとか。
郷土料理にも、先人の知恵が詰まっていますね。
とても美味しかったです。ご馳走様でした!
昼食の後は、ワークショップ「視点採集」のお時間です。
「視点採集」とは、ひとつの視点を決めて撮影をすることで、
今まで気付かなかった見方や新しい視点を蒐集しようというワークショップ。
同じ時間に同じ場所を歩いていても、それぞれの視点が異なることで、違ったストーリーが生まれます。
一緒に巡った人達が撮った写真を見、発表を聞くなかで、
自分にはなかった新しい視点が発見できるのも、このワークショップの魅力です。
①視点をもって写真を撮る・・・
「どういう視点で撮るか」を決めて撮影します。
何気なくシャッターを切るのではなく、1枚1枚を大事に、意識しながら考えて撮ることで、
写真に「自分らしさ」が表れてきます。
改めて「自分はこういう情景・光・色・形状が好きなんだ」と気付いたり。
②写真をセレクト・・・
撮った写真の中から、自分の視点・テーマに沿った10枚をセレクトします。
ひとつの視点で撮られた写真をまとめて見せることで、テーマがより強く伝わります。
③発表・・・
写真をプロジェクターで投影しながら、どういう視点で撮ったのかを発表します。
他の人が撮った写真を見ることで「こんな切り取り方があったのか!」という新たな発見や、様々な刺激も。
では早速、写真をセレクトしましょう。
厳選して撮っていないと、10枚を選ぶ時になかなか苦労するのです。
今回は撮影時間が1泊2日と長く、いつもより更に大変だったと思います。
場所は「椎葉民俗芸能博物館」4階の多目的ホールをお借りしました。
椎葉の民家が再現され、神楽の舞所となる「御神屋(みこうや)」のしつらえがしてあります。
正面には神霊を迎える祭壇「高天原(たかまがはら)」が立てられ、周囲には注連などの飾り付け。
椎葉神楽は、村の人にとって一年を締めくくるお祭りです。
村内の26地区で保存伝承されていて、舞いも衣装も太鼓のリズムも多種多様。
昔のままの態様を残す神楽は貴重なもので、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
いかにも椎葉村らしい舞台での発表となりました。
写真を1枚1枚プロジェクターで投影しながら、
どんな視点で撮り、どのような意図を込めたのかが語られていきます。
驚いたり、感心したり、つい吹き出したり。
同じ視点など一つもなく、心から感嘆してしまうようなテーマや、自分では絶対に思いつかないような切り口、
そして、爆笑の渦に巻き込む発表など…。
とても充実した時間となりました。
視点採集で撮られた写真には、いわゆる「観光名所」のようなものはほとんどありません。
しかし、それでも一貫したテーマのもとに撮られた写真には、その場所らしさが写し込まれています。
意識して撮らなければ、視線を向けることさえなかったかもしれない景色。
それは、椎葉に住んでいる方の目にも、新鮮なものに映ったのではないでしょうか。
最後に、参加者の皆さんや観光協会の方から感想を頂いて、締めくくりました。
観光協会の方も、椎葉を訪れた人の生の声を直接聞く機会など、なかなか普段は無いとのことで、
喜んでいただけたようで良かったです。
皆さんの採集されたコレクション(写真と視点)は、別の記事でご紹介いたしますね。
・視点採集「椎葉村メープルツアー」編・その1
・視点採集「椎葉村メープルツアー」編・その2
・視点採集「椎葉村メープルツアー」編・その3
ついに椎葉村を離れる時がやってきてしまいました…。
観光協会の方々、そして「よこい処しいばや」の皆さんもお見送りに来てくださいました。
小雨の降るなか、いつまでも手を振る皆さんの姿が段々と小さくなっていきます。
楽しい2日間を、本当にありがとうございましたー!
途中、椎葉村物産センター「平家本陣」に立ち寄って、椎葉村のお土産を手にし、
ホクホクの笑顔で、たくさんの思い出と一緒に福岡へと戻りました。
何やら〝グルメツアー〟の様相を呈した今回のツアー。
胃袋が一つでは足りないくらい、美味しいものをたらふく頂きました。
多大なおもてなしに、参加された方の口から「おもてなしが過ぎる村」という名言も飛び出すほど。
平家の落人たちを受け入れ、無縁仏までもてなし、土俵を作りたいという声を実現し…。
椎葉村の方々の「おもてなしの精神」は、もはやDNAレベルで刻み込まれてきたものではないかと思うくらい、
本当に至れり尽くせりの旅でした。
このホスピタリティ精神、ぜひとも見習わねばと思います。
「のさらん福は願い申さん。」
村で、昔から言い習わしてきた言葉だそうです。
これは「授からない福は望みません」という意味。
必要以上のものを欲することなく、山の神様から授かった分だけを感謝して受け取るということ。
自然に対する、謙虚な姿勢。
それは命への敬意であり、人を敬う気持ちにも繋がると思います。
そうした土壌だからこそ、椎葉の「おもてなしの精神」も育まれてきたのかもしれません。
人と人とのふれあいが希薄な現代の社会において、
忘れられつつある大切なものが、椎葉村には残っているような気がしました。
たくさんの気づきと学びを得た2日間でした。
ご参加いただきました皆さん、本当にありがとうございました!
1泊2日の盛り沢山の行程、大変お疲れ様でした。
皆さんのおかげで、とても素敵なツアーとなりました。
そして、このツアーをエフ・ディで開催するきっかけと、様々なご協力をいただいた
NPO法人九州地域交流推進協議会の内田雅行さん。
1日目の夕食の際に、皆さんにビールまでご馳走してくださり、ありがとうございました。
また、椎葉村役場の皆さん、関わってくださった椎葉村の皆さん、
安全運転で私たちを運んでくださった第一観光バスの石井さん、
本当にありがとうございました。
最後になりましたが、椎葉記史さんをはじめとする椎葉村観光協会の皆さん、
開催の準備から、ツアー中のアテンドに至るまで、大変お世話になりました。
初めての宿泊ツアーでしたが、おかげさまで成功裏に終えることができました。
心より感謝申し上げます。まことにありがとうございました。
*レポートに使用している写真はエフ・ディ石川博己が撮影したものですが、
所々にスタッフ林が撮った、ピンぼけの下手な写真も混ざっております。申し訳ございません。TT
なるべくツアーの様子をお届けしたいという一心からですので、お見苦しい点は何卒ご容赦いただければ幸いです。