Issue 2023.12

Issue 2023.12

デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2011.11.11

屋久島宮之浦岳縦走一日目。その3

新高塚小屋までどれだけ引っ張るんだ、という感じだが自分の備忘録のために詳細に書いていきたい。

宮之浦岳頂上から20分ほど下り焼野三叉路。ここでザックをデボして永田岳へ行こうと思ったが、ここでもパス。
スルーして新高塚小屋方面へ進んだ。右手に太吉ヶ峰を望みながら平石に到着。
晴れていればここからの眺めはすばらしいものだというが、真っ白で見えない。
今回は屋久島の悠々たる景色はまったく拝めそうにない。

淀川小屋で朝ごはんの弁当を食べて以来、何も口にしていない。
さすがにお腹がすいてきたので、この辺の少しくぼんだ雨風をよけれる小道で食事をとった。
あまり休みたくないのは、ザックを降ろしてまた背負った時、猛烈に重く感じるからだ。
手袋の中も水浸しで外すとまたつけるのが嫌になる。
いろいろと濡れているところが気持ち悪くなってくるのだ。
さっさと食事をすませてリスタート。
ザックに入っていたものがお腹にいっただけなのに軽く感じるから不思議だ。

平石から第二展望台、第一展望台と過ぎるがまったく景色はない。真っ白だ。
ザックがさらに重くなってきた。もうMAXで水を吸っている。
靴も歩くたびにぐっちゃぐっちゃ言っている。この辺で2回くらい滑ってこけた。
こける瞬間「頼むからねんざだけは勘弁して」と願う。
あと小一時間ほどで新高塚小屋のはず。

この辺、木の階段やスロープがつづく。今回雨の中何が一番怖いかというとこの木のスロープ。
もうツルッツルッ滑るのだ。なので、できるだけその横の地面を歩く。
これだけ重いザックを背負っていると、ちょっと右によそ見しただけで左に身体がねじれてこけそうになる。
一旦立ち止まって右なり左なり見ないと、逆の方向に身体が持っていかれてしまう。
今回の宮之浦岳縦走は滑落しても最悪死にそうなところはなかったので良かったが、
もう少し厳しいところに行った時はこの点注意しよう。

新高塚小屋に着いた。「おお!」とひとり言。ちょっと感動した。
朝の5時に淀川登山口から登り、新高塚小屋に午後1時に着いた。スタートが悪かったが、なんとか早めに着くことができた。
小屋に着くと板場にもうすでに2つテントが張られていた。
今回僕もテントを用意してきたが、この雨の中設営するのも面倒なので小屋の中に入った。

小屋に入るとまだ少なく、空いている。ラッキーだ!
下のスペースには数組いるようだが、2階のスペースはがら空きだ。
さっそく濡れた靴を置き、中に入って荷物を置こうとすると、花見の場所取りのようなロープが張られている。

なに?これ?

小屋の中にいる人に聞くと、団体客のガイドの仲間がもうすでに場所をとっているのだと。
反対側から登ってきて、事前に山小屋の中を押さえているのだ。

なっにぃー!(怒)

山小屋は避難小屋だ。山で生命を守るために用意されている小屋で、全ての人に平等のはず。
誰かが独占できるものでもないし、ましてまだ来てもない人の場所をとるなんておかしい!
それもだれでも居たい2階部分を独占している。

許せんっ!

こんなハイペースでやってきて場所がないかもしれないとは。
僕はテントを持っているから最悪テントを張れるが、もし持っていない人が来たらどうする気だ?
「残念でした。はいさようなら〜」とでも言って追い払う気か。

玄関口でガイドが僕に言う。

ガ:「すみません、いっぱいなんですよー」
僕:「は? いっぱい余ってるじゃないですか?」
ガ:「いや、もう場所とってあるんで」
僕:「いや、関係ないですよ。いないし。荷物置いて、取ってるってんならわかるけど」
ガ:「え、いや、来るんで…」
僕:「早い人から場所取れるのが常識でしょ」
ガ:「え、いや20名の団体さんなんでいっぱいなんですよ」
僕:「その人たちに早く来るように言ってください。
   それかその人たちが間に合わなかったらあなたたちがテント張ってあげればいいですよ」
ガ: ひたすら繰り返し(リピート)
僕:「山小屋というのは生命の危機を守るために設置されていて、誰のものでもあるんですよ。
   あなたたちは自分たちのお客さんを優先してるけど、僕らも屋久島のお客さんですよ。
   外に出てて死んだらあなたたち責任とれますか?
   この山小屋は屋久島の山小屋ですよ。あなたたちが独占したいなら自分たちで建てたらいい」
ガ: しどろもどろ…
僕:「それにね。僕は自分だけ足のばして寝ようなんて思ってないですよ。
   もし、その団体さんたちが来てテントもなく往生してたら、膝立ててでもスペース作って譲りますよ。
   その時は言ってください」
ガ:  …………。

いや、素直な気持ちですよ。ダメですよ。場所取りだなんて。

というわけで小屋の中に入り、2階に行こうと思ったが1階に何名か男性陣が陣取っていて
まだスペース空いていたのでそこに行くことにした。にぎやかそうだし。
僕の横は野口さんという30代半ばだろうか、登山歴15年というベテランの男性だ。
日本各地の山々を登っていて、先日屋久島に着きその足で山に入り白谷小屋で一泊、そして今日はこの新高塚小屋で一泊し
明日は淀川小屋と、滞在期間中はずっと山泊を繰り返して降りたら飛行機で帰るという。
まさに0 to 0の登山旅行だ。強者!かっこいい。今度は僕もそれやってみたい。

山小屋で濡れたシャツやパンツを着替え、マットを出して空気を入れ、
ザックの中からストープやクッカー、食料を取り出す。
リュックの中ももうぐちゃぐちゃなので、全て取り出し並べた。
濡れたザックをカラビナで壁に吊り、濡れたものを身近に張られたロープの上に干した。
やっと落ち着いた。

〜つづく。
写真は新高塚小屋の近くで遭遇した鹿の親子(わかるかな?)iPhone4sで撮影。