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2021.5.4

陶磁器生地工房 アトリエ ビスク |太田祐子さん

太田さんが波佐見に残ることにした理由は、ここが焼き物の産地で、生地屋の需要がある場所だったから。
それに、住みやすい町で、とても気に入っているそう。

「よそから来て困っている人がいたら、助けようと手を差し伸べてくれる、親切でオープンな人が多くて。新しいことにも挑戦しやすかったですね。」

2019年7月、折敷瀬郷(おりしきせごう)に工房が、12月には隣接したギャラリーも完成。

「アトリエ ビスク」の作品は、洗練された優美な形と、柔らかな色合いが相まって、とてもエレガントな雰囲気。
普段使いはもちろん、ハレの日にも使いたくなるような、気持ちも華やぐ器です。
さらに、手ロクロだからこその心遣いが随所に。

「石膏型でつくる場合、生地の厚さは全て均一になりますが、手づくりなので、下の方に厚みを持たせ、上にいくに従って薄くし、重心を下げて倒れにくいようにしています。
口縁は凛と美しく処理をして、取っ手をつくる際には支点・力点を考えて。
本当に些細なことかもしれませんが、実際に使ってみると良さが分かるような、手に馴染む器をつくっていきたいと考えています。
お客様から『ここのは使いやすくて、もう他のには戻れない』と仰っていただくことも。」

波佐見ポートレイト|陶磁器生地工房 アトリエビスク|太田祐子さん 波佐見ポートレイト|陶磁器生地工房 アトリエビスク|太田祐子さん

生地職人としての仕事は、100個でも200個でも、オーダーの数だけつくれる技術が不可欠。
それだけでなく、依頼主の作風を理解し、その意図を繊細なニュアンスまで的確に汲み取らなければ、希望通りの形は完成しません。

「たとえ寸法が合っていても、それでOKではないんですよ。
丸く膨らみを持たせた方が良いのか、すっきりとしたラインを求めているのか。
コミュニケーション能力やセンスも必要なんだと、やってみて分かりました。

決められた条件の中でも、さまざまに工夫を凝らし、自分の想いを込めることのできるので、とても面白い仕事だと思います。
波佐見で、女性では私しかこのスタイルをやっていないので、頑張っていきたいですね。」

太田さんは、国家検定である「一級技能士(陶磁器製造・手ロクロ成型作業)」の資格を2015年に取得。長崎県で女性初だそうです。
2018年には、これまた女性初の「伝統工芸士(波佐見焼・成型部門)」にも認定されました。
その確かな技術は折り紙つきです。

波佐見ポートレイト|陶磁器生地工房 アトリエビスク|太田祐子さん

そして、長崎県の無形文化財(ロクロ成型部門)である故・中村平三(なかむらへいざぶ)氏の最後の弟子でもあります。

「先生からの教えのおかげで、私の今があります。
できれば、この技術を誰かに教える機会があれば嬉しいですね。
今は忙しいので、10年後とかになるかもしれませんが……。」

ギャラリーに並んだ器の精巧な形を見ていると、機械や型を使わず、手作業でつくられているなんて、にわかには信じがたいほど。
工房見学も大歓迎だそうなので、その高度な技を、ぜひ間近でご覧いただければと思います。

波佐見ポートレイト|陶磁器生地工房 アトリエビスク|太田祐子さん

──お仕事のやりがいを教えてください。

「手ロクロは誰もが持っている技術ではないですから。窯元さんや絵付け専門の作家さんに『やっと思い描いていた理想の形ができた!』と喜んでいただけると嬉しいですね。

作家としては、ものづくりを純粋に楽しみながら、自分のつくりたいものを自由に形にできること。
生地屋と作家、どちらも違う楽しさとやりがいがあります。」

──今後のビジョンや目標は何ですか?

「とにかく続けること。
続ければ続けるほど、技術も上がっていく仕事なので、生涯現役を目指したいですね。」

──私の波佐見のイチオシ!

「千年以上の歴史をもつ『金屋神社』が、荘厳な雰囲気で好きです。
宮司さんも人望のある素敵な方なんですよ。
『松原工房』や『アトリエ ビスク』の火入れ式や地鎮祭の時にもお世話になりました。

それから、地元の旬の食材が新鮮で安い『農産物直売所 どろんこの里』もおすすめ。
毎日行っても飽きません!」

波佐見ポートレイト|陶磁器生地工房 アトリエビスク|太田祐子さん

*2021年2月インタビュー
*撮影の時のみマスクを取っていただきました。

陶磁器生地工房 アトリエ ビスク

長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1482-13
ギャラリー営業時間/13:00〜17:00
TEL/0956-85-4222
定休日/日曜
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