Issue 2023.12

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デザイン塾で制作する、テーマ自由のオリジナル冊子。受講生4名の学びの成果をご紹介。

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2018.3.5

Report: モニターツアー 視点採集「平成筑豊鉄道」編 6/15

【5】H.Kさん 男性(SIGMA DP2 Merrill /digital)

〈H.Kさんの視点〉

平成筑豊鉄道の最終駅がある、直方の出身です。
筑豊といえば炭鉱を思い浮かべるかと思いますが、実は近代でいうと、鉄の方が代表産業。
こちらの方もほぼ廃れて、私の父親も鉄工所を営んでいるのですが、今年でもう引退です。
そういったこともあり、鉄にまつわるもの、さらに大きなテーマとして「枯れる」ということに注目しました。
僕の仕事のIT業界では、「枯れる」というのはちょっと良い言葉で、
「こなれる」とか「安定している」といった意味で使われます。
そういった視点で、人工物と自然物の「枯れる様相」を撮りました。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

商店街のアーケードの入口のところに、神村鉄工株式会社という文字と昭和49年と刻まれたプレートが。
古そうなんですが、比較的新しい。ちょうど時代のランドマークといえるのかなと。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

こういう謎の機械にすごく惹きつけられまして(笑)。
おそらく発電機と配管で、エネルギーを上に運んで、何かをしようとしていたんだなと予想しました。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

これは今見ると、とても贅沢だなと思うのですが、かなり分厚い鉄の扉なんですね。
これだけ強固に守る必要があるのかなっていう…(笑)。ここに何があったのでしょうね。
良い感じに枯れていて、本当は赤錆なのですが、白黒でしっとりと撮ろうと思いました。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

この釘の名前をご存知ですか?「犬釘」と言って、横にすると犬のような形をしています。
外側は風化していきますが、磨いたら綺麗な金属が残っていて、昔は質の良い金属が使われていたようです。
ただ、ある時代のものは、中まで錆びてボロボロになるものもあり、
近代の方が質の低い金属が使われていたりしたそうです。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

よその地方の人から「石炭やボタが普通に転がっていてすごいよね」って言われるのですが、
僕らからすると、地面を掘ったら絶対に出てくるもの、という感覚で…。
この石炭の欠片も、ちゃんと深く考えれば「化石」なんですよね。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

鉄工所の壁を写したものです。
レンガの方が先に風化し、目地に埋めたコンクリートの方が頑丈に残っていました。
モノを作る人って、完成のイメージは想像できますが、
それがどう風化していくかという部分に関しては、予測不可能ではないかなと。
誰も、壊れ方や、そのモノの終わりについては想像しないので。
だからこそ敢えて、その過程に意識を向けてみようかなと思いました。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

こちらの壁の上の方は、反対に目地が先に風化しています。
ということは、上と下で違うレンガが使われていたのではないかと。
おそらく、元々あった塀に、別のレンガを積み上げていったのではないでしょうか。
まるで地層のようです。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

南方のバナナ系の植物なんですが、じっと見ていたら人がペアで踊っているように見えてきました。
元々が南国の植物なので、寒い時期は当然枯れるんですよね。
この間、台湾に行った時に同じような植物を見たのですが、冬も生き生きとしていました。
きっと、この植物自身は、このように寒い季節を意図していなかっただろうなと。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

先程も出てきた「犬釘」の、耳が付いていないバージョンです。
結構年数が経っていますが、しっかり身が詰まっていて、これは良い犬釘(笑)。
たぶん削っても錆が入り込んでいない位、しっかり鍛錬された釘でしょう。
石(ボタ)と、植物の枯れと、鉄の風化具合とを一緒に撮れたらどうかなと、ずっと場所を探していて、
ちょうど良いバランスのモチーフがあったので撮ってみました。

視点採集「平成筑豊鉄道」編

紫陽花は土の酸性・アルカリ性によって花の色が変わり、
一般的に酸性なら青色、アルカリ性なら赤色になると言われています。
鉄分を含んでいると酸性になりますが、赤村は綺麗な土地なので、あまり鉄は入っていないのではないか、
だとすると花の色は…と、枯れの様相の中から、逆に色をロールバックしてイメージしたいなと思い、
あえて枯れた紫陽花を撮りました。

〈H.Kさんの感想〉

電車の中でプレゼンという貴重な体験企画で、とっても楽しかったです。
馴染みのある筑豊地区で色々ゆかりがある場所でしたので、
なるべく新鮮な第三者視点を意識して撮ろうと思いました。
F_dのみなさん、ランドブレインのみなさん、平成筑豊鉄道のみなさん、どうもありがとうございました。

〈石川の講評〉

Kさんの視点は「鉄、枯れる」です。
「枯れる」を良い意味で「安定している状態」という解釈で切り取った写真。
そこにあっても違和感のない状態のもの、という捉え方もできるかもしれません。
古い町には当然古いものがあり、それが壁だったり家だったり何かしらの建造物があります。
もう役目を終えてる機械などもあります。
毎年どこか壊され整理されていく中で、個人所有のものは割と残っていたりします。
そういう“残ったもの”はその町の“味”(観光資源)として重要な要素なんですね。
Kさんの視点はそういった、言葉でなかなか表現しにくい「町の味」を見える化してくれました。

5枚目の写真の「石炭」。田川ではあちこちにありましたね。
僕は炭鉱住宅に住んでいて、採掘場(すでに廃坑)が近くにありましたので
母と一緒にボタ(石炭のくず)を拾いに行ってました。
ボタ山で、手も服も顔も真っ黒になりながら遊んでいました。見慣れた黒い石です。